2. 検疫 所長

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「全部聞いたわよ。サミーちゃん、音声の転送ありがとう。ジェフ君、お疲れさま。穏便に収めようとしてくれたのにごめんなさいね」  女性はそう言って端末をちらりと見せてくれた。  サミーはリアルタイムで音声だか動画だかを彼女の端末に送っていたということのようだ。おそらく、サミーとドルフィンは短距離無線で互いにやり取りをし、サミーが裏で無線を使用して二人と連絡を取ったのだ。 (この二人……!)  キャシーは驚きに目を見開いた。  ウェーブのかかった黒髪のロングヘア。モデルのような身長に、10センチほどのハイヒール。  整った目鼻立ちながらアジア系特有の涼しげな目元。  人類最高峰の技術を誇る東方重工のトップ、キョウカ・アサクラその人が目の前にいたのだ。     キャシーはびっくりして立ち上がった。  もう一人はきっとドルフィンの祖父だ。リュウ・アサクラ。医学博士で、確か遺伝子工学の権威。 (とても、実年齢には見えない……) 「……この年になってまで『ママー! 助けてー!』をやってしまった。みんなミラには黙っておいてくれ。恥ずかしすぎる。穴があったら隠れたい。日本海溝に沈みたい。五体満足だったら吐いてる……」 「いや、仕方ねぇんじゃねぇか、この状態。本気でカオスだったし、俺も収められなかったんだから仕方ねぇよ、な、零」  ジェフがドルフィンを慰める。 「五体満足だったら吐いてるって何よ! 本当なんなの連絡も全く寄越さなくて心配したんだから!」  キョウカが眉を吊り上げるが、ドルフィンは無視を決め込んだようだ。一言も発しない。 「零! うんとかすんとか言いなさいよ! アンタ聞いてる? 全く聞いてないわね!」 「……すん」  スピーカーから一言。 「ふざけるのもいい加減にしなさい!」  キョウカはドルフィンのドローンに向かって怒鳴りつけた。  もちろん会話は日本語だ。キャシーは全く理解できなかったが、サミーが解説を入れながら同時通訳をしてくれたのだ。 (おいドルフィン。それはないぜ、いくらなんでも……) 「ま、まさか。朝倉零!? サイボーグになっていたのか? あのテロの後?」  動揺する男。  ホークアイとエリカは言葉を失っているようで空中でホバリングしたまま停止している。ダガーは実物の著名人を見て驚いたのか、口をあんぐり開けている。 「ミラ・スターリングを出してもらおう。鳥類研究所所属の私が彼女の身を預かる。異論があるなら厚労省のトップに僕が話をつけておくから、君は安心して首が飛ぶのを待つといい」  龍がにっこりと口角を上げた。  現場は、混乱を極めていた。
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