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祖父である龍がリビングにこのサイズの鳥を連れてくることはそうそうない。エアコンの風向きを調整するルーバーに挟まる、ドアや棚の扉に挟まるなど、リビングで事故に遭うことが考えられるからだ。
また、廊下につながっているドアをいつ誰が開けるかわからない。
インコ用の部屋は二重扉になっている。その部屋から基本は出さないのが朝倉家での決まりだった。だが、インコが飛べないなら話は変わってくる。
ピュイピュイチチチチ! と機嫌よさそうにインコが鳴いている。ミラがボールを転がすと、インコがそれを追いかけてつつきまわしている。
仮想現実空間の彼だったら、だらしなく頬が緩んでいるさまをミラに見られていたことだろう。
(じいちゃんに認められたなぁ、ミラ)
この空間にミラとインコだけ。龍が自分の家の飼い鳥を誰かに預けるなんてことはそうそうない。この状況が全てを物語っていた。
零はミラに声をかけた。
「ミラ、おはよ!」
「零、おはよう!」
ミラが弾かれたようにこちらを見た。
「あ、飛ぶとレモちゃんびっくりしちゃうかもだから連れてきてあげる。レモンっていうんだって!」
ミラがすっ飛んできて零のドローンが抱えられた。ローテーブルの上にちょこんと置かれる。
近くで見ると、やはりルチノーカラーのセキセイインコだ。羽は黄色、目がアルビノのように赤っぽい。
零はミラに礼を言ったのち問いかけた。
「首とか背中とか悪化してないか? 今日も痛み止め打ちに病院行く? いや、往診頼もうか?」
ミラは困ったように笑った。
「結構よくなったから湿布だけで大丈夫」
「ならよかったよ。でも少しでも変だったら言ってくれ。そういえば、じいちゃんは?」
「ニワトリハウスの掃除するからその間この子と遊んであげてって言われたんだ」
「ああ、なるほどな」
レモンはテーブルの上をちょこまか歩き回り、水を浴びた後、インコ用クッキーを齧っている。
「あのクッキー、多分じいちゃんが焼いたやつだよ。よくバードブレッドとか乾燥フルーツとかも作ってる」
「すごい、手作りか! いいねぇ、おいしい?」
ミラは頬杖をついて微笑みながらレモンを眺めている。窓から入る陽光で、彼女のオパールのような光を放つ髪や同色のまつ毛が美しくきらめき、目には蠱惑的な影を落としていた。
零はガールフレンドの姿に一瞬見惚れた。
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