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19. 東方重工 総裁室
昼前、なぜか零は母親に呼び出された。重工の本社である。面倒だが行かねばならない。
実に面倒だ。ミラと過ごしたかったのにと零は大人げなく不貞腐れた。
「京香、昨晩も帰ってこなかったし多分ろくなもの食べてないだろうから、これ持って行ってくれる?」
そう言われて祖父である龍から保冷バッグを持たされた。おそらくサンドイッチか何かだろう。
「今晩ステーキパーティするから帰っておいでって言っておいて」
「了解」
肉で釣るのがなんとも祖父らしい。
(ぜんっぜんミラと一緒に居られない……)
祖父が行こうと言っている店は銀座通りの我が家のメンバー行きつけの老舗寿司店だ。あそこのネタは何を食べても美味しい。
祖父が予約していたのは二階の座敷であったし、ならばくっついて行こうと思っていた零は思い切り出鼻を挫かれた。
「行きたくないなぁ、どうして……」
「重工、行きたくないの?」
「ミラと一緒に寿司屋に行きたかった……」
するとミラは不思議そうな顔をした。
「あそこ、あの価格帯の寿司屋にもかかわらず一貫から頼める。知らないネタばっかりだと思うから、ミラの好みは一通り把握してるし、おすすめとかさ……できるだろ? 俺食えないけど」
基本寿司屋といえばおまかせが出てくるものだが、贔屓にしているその店は違った。ラインナップはその日によって違えど、好きなネタを頼んで目の前で握ってくれるのだ。
寿司ならば白身や貝から攻めて次は赤身の魚に移行するのがいい。あそこはアナゴも美味しいし、ツブ貝やみる貝もぼたんえびも超一級だ。
何より、美味しそうに食べるミラを見たかった零である。
「それなら僕に任せてー! 零はほら早く行っておいで! あ、矢島! 矢島一緒に行ってあげて!」
祖父は警備担当の矢島を呼びに行った。荷物持ちと運転手をさせようというのであろう。
「……仕方ない、行くか」
零はプロペラファンを展開し、渋々飛び上がった。
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