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実際に買いたいものがあるかどうかはさておいて、とりあえず矢島を無理やりリリースするのも撒くのもやめた。彼も仕事だから困るだろうと零も考えたのだ。
かつてここブラボーⅠにいた頃の健常者の彼だったら一目散に撒いていただろうが、多少はその辺成長したというものである。
「零さま、変わりましたね」
「どこが? なんのこと?」
「以前でしたら私を撒いて楽しんでいたじゃないですか」
「……そうだな。でももうじいちゃんに怒られるのも飽きたよ。実際命狙われたしな。生き残っちまったが」
零は百貨店、銀座屋の食品売り場に飛んだ。同時に祖父に「何かついでに買うものある?」とメッセージを送る。
メッセージを待つ間に近くを見て回った。特段変わった様子もない。商品も変わらず。値段もこちらにいた頃と変わらない。
「あんまり様変わりした感じはないな」
「そうですね。変わらずだと思いますよ」
零は己のかつてのナワバリを見て回ったが、特段の変化もない。よく利用した老舗の飲食店も変わらず営業しているようだ。
「満足されました?」
「そうだな……あ、じいちゃんから返事があった。ニンニク買ってこいって。まじかよ……」
零は地下にとんぼ返りして野菜売り場でニンニクを買った。
「よし、帰るか……」
「かしこまりました」
表通りに出た時のことである。百貨店一階に併設のカフェの前。ミラとフィリップの姿があった。
「あ、ミラ……」
今日は家にいるのではなかったのか。出かけていたフィリップに呼び出されたのかもしれない。
「シュンイチー!」
その時だ、ミラは目の前にいた背の高い細身の男に飛びつくように抱きついた。
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