19. 東方重工 総裁室

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「え、ちょっとミラ!」  シュンイチと呼ばれた男は戸惑ったように言った。黒髪のアジア人。どこか日本人的な雰囲気を感じるし、名前からしておそらく日系人である。 (誰……?) 「ミラ、首怪我したのか?」 「ちょっとね……でも大丈夫、治療中!」  「シュンイチ、ニコも無事だぞ。いやあワッカ姉、ラビ、久しぶり」 「ニコ、まだ持ってるのか? え……びっくりだな」  アジア系の男が驚きに息をのんだ。男の隣にいるミラよりやや背が低いが平均より背の大柄な女性がくすりと笑みをこぼしながら言う。 「とりあえずコーヒーでも飲みながらちょっと話でもしようか。フィリップ、お前昼間も言ったけど、本当にでっかくなったなぁ」 「あれからニョキニョキ伸びた」 「体格が全然違うよね!」  ミラは心の底から嬉しそうに例の男を見ていた。 「ニョロニョロに近づいてなくて安心したぞ」  灰褐色の髪の女性が金色の目を細めた。 「二人とも元気そうで安心したよ」  彼女の隣にいた暗褐色の髪の大柄な体格の男の目も金色だった。 (実験室の仲間か)  零はその場を離れることにした。ミラが抱きついた男が気にならないわけでもなかったが、自分が割り込んだら明らかに邪魔だ。 (ミラが好きそうな背の高いアジア系……)  相手が欧米系だったらなんとも思わなかったかもしれない。それこそホークアイのような男に見た目で勝てるわけもない。だが、アジア系となれば話は別だった。  そしてなんとなくいけ好かない。  なんだか耐え難くなった零はカメラを逸らした。 「行くぞ」 「お声がけしなくていいんですか?」 「俺はお呼びじゃない。明らかにな」  零は矢島にそう答えると、皆に気づかれる前に逃げるようにそそくさとその場を離れた。  旧友との再会に割り込むようなどうしようもない男にはなりたくなかったこともある。  零はまだ知らない。ミラの宝物であるシロフクロウのぬいぐるみ、ニコの名付け親がそのなんとなくいけ好かない男であることを。  
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