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「うん、本当意味不明だぞ。フローの世話に疲れたか? あいつドルフィンのこと大好きっぽいから……あ、変な意味じゃなくてだぞ? まとわりついてうるさかったら適当に流しとけ」
(いや、フォークもまともに使えないホークアイを今の状態で飲食店に解き放つのは俺が許せない)
なんだろう、あの男はできる男であって欲しいのだ。
あのクールな見た目でカトラリーもまともに使えないなど大事故である。
「クールでお高く止まった野郎に見えて、意外にこう……違うじゃないですか。なんか変なところで不器用で、だから放っておけないんですよ。今度ザッハトルテを食べさせなきゃならないので。カトラリーも今練習中ですし」
オーストリア系でその文化圏で育ってきたにもかかわらず、あの男はザッハトルテを知らないのだ。これは由々しき問題である。
「朝倉の坊主の英才教育か。ホークアイ、こりゃ化けるぞ」
「叔父としてフローが羨ましいなぁ」
「私だってドルフィンにテーブルマナー教えてもらえるなら金払いたいくらいですね」
「いや金はいらないって……キャシーにはいつも世話になってるし」
なんだかどっと疲れた気がした。
ミラと親しげに話していたあの男は誰なんだろう。頭からこびりついて離れない。いつぞや料理中に鍋を焦がした時ですらここまでこびりつかなかったのではないかとすら思う。
(疲れて心が狭くなってる? ホークアイと酒でも飲みに行くか)
あの男ならばなんでも聞いてくれそうな気もする、と零は思った。
ミラは聞いたら普通に教えてくれるだろう。多分、ただの旧友か実験室の仲間だ。でも彼女が帰ってくるまでここで内心の動揺を抑えながら上官たちに気を遣い、やりとりする元気が今の零にはなかった。
零は申し訳ないが少し疲れているから仮想現実空間で気分転換したいと言って、ドローンとの接続を切った。
祖父は「こっちは気にしないでのんびりしておいで」と言って送り出してくれたし、キャシーに加え大佐二人もかなりこちらを案じてくれた。
(体調は抜群にいいんだが……申し訳ない)
零は早速仮想現実空間の自室にログインすると、端末を取り出してホークアイにメッセージを送った。「今暇なら、酒でも飲みに行かないか?」と。
一瞬で既読になり、画面に着信の知らせが来た。アイコンはシンボルのタカのマークだ。
零は思った通りだな、と隠しきれない笑みを口の端に浮かべながら通話ボタンを押した。
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