2. 仮想現実空間 零とフローリアン スペインバル

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「もう今更何か言ったって俺の身体が戻るわけでもないし、奴らがやっていたことは到底ゆるされることじゃあないが、あの組織がなかったらミラが生まれてなかったと思ってしまうくらいだし……」  ミラはあの頃のことを思い出したくないのではと思って聞くことを遠慮していたのだ。いっぱいきょうだいが死んだと彼女は言っていたからだ。  ところで、なぜホークアイがその男と会っているんだ? そもそもの状況をよく飲み込めていないことに零は気がついた。  彼は一呼吸と思ってグラスのワインを口に運んだ。テンプラニーリョ。ここはスペインバル風の店だったので、オーソドックスなスペインらしい赤ワインにしようとこれを選んだのだ。  凝縮した黒系果実の風味、深くて甘い樽香。情熱的で大胆ながら、滑らかな飲み心地にキリリとスパイスのようなニュアンスもあり、余韻もいい。チョイスは最高。  生ハム、チーズ、オリーブなどの盛り合わせにうってつけである。  彼は言葉を決めてから口を開いた。 「そもそも、何がどうしてそいつと会ったんだ? ミュラー中佐に会いに行ってたんだよな?」 「ああ、親父に会いに避難所に行ったら、ボランティア活動していたシュンイチともう一人、ワッカという女性にばったり会ったんだ。ダガーが気づいて驚いていたよ」 「灰褐色の髪の女性か?」 「ああ、そうだ。オオカミ人間だ、よろしくって言っていたな。クールでさっぱりした姉御肌の美人、という印象だな。ずっとダガーをからかっていた。あと自分はライオンだと言っていた男もいたが、彼も見たか?」  女性の方はオオカミだったのか、背は大きめだがすらりとしていて、確かに美人だったかもしれないと零は首を捻った。あまり覚えていないが。確か、金色の目の大柄な男もそばにいた。 「美人と言われてもどうだったか……顔まであまり覚えていないが、確かに実験室出身らしい男女はいたな」  今やミラ以外、正直目に入らない零である。零はグラスに残っていたワインを飲み干した。  すかさずホークアイの手がワインに伸びて慣れた手つきで注いだ。 「あ、悪いな」 (こいつ絶対こっそり練習してるだろ)  最後に注ぐのをやめた瞬間。手首を少しだけひねるように上に向けて、ワインが垂れるのを器用に防いでいる。非常に美しい、ありていに言えばソムリエのような手つきだ。
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