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「私は今の生活に満足しきっているつもりだったが、きっと違った。無知で、そう、大海を知らない水族館の魚のように満足させられていたんだ。以前はなぜエリカがああもリアルに固執するのか全然わからなくてな。今なら少しわかる……」
零は手元に向けていた視線をホークアイに向けた。
この男がそんなことを言い出す日が来るとは思っていなかったのだ。
「ああそうだ、ソックスの話で思い出した。今日避難所でソックスの家族たちに会ったぞ! 炊き出しを出す側になっていた。ダガーはあの店の常連だったらしいな。ダガーを見てご両親が気がついて……こちらにレストランで働いている親族がいると言って、一緒にケバブスタンドでボランティアをしていたよ。強いな、民間人は」
いきなり話題が別のところに飛んでいって一瞬面くらったが努めて冷静を装う。
「ああ、俺たちも早いとこ働かなきゃならないな」
「そうだな」
そう、自分達は軍人だ。
民間人だとて自分達のできることをしているというのに、こうも遊び呆けてはいられない。
「もう少しのんびりしたい気もするが、こうもダラダラしているわけにもいかないな」
零は自分自身に言い聞かせるように言った。
「ああ、今もきっと別の移民船が狙われたりしているんだろうな、ブラボーⅠは最新システムでどこよりも迎撃能力が高いはずとサミーが昼間言っていた。しばらくのんびりできるだろうとは言われたが……」
「ああ、俺は古巣に戻ろうと思う。まあ、そこから重工に出向させられる気もしないでもないが……お前もそれなりの待遇で迎えられるはず」
母親から手伝いをしろと言われて重工との共同プロジェクトに入れられる可能性もゼロではないだろうと零は考えた。
零は残りのワインを半分ずつホークアイと己のグラスに注いだ。これでボトルは空となった。
「またキャリアの積み直しか。参ったな」
「俺が推薦する。サミーも口添えしてくれる。悪い待遇にはならないだろう」
ホークアイが小さく息をのんだことに気づき、零も口の端に笑みを浮かべた。
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