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「なんで君はラプター相手になると急に腑抜けになるんだ?」
「誰が腑抜けだ!」
「君がだ!」
往来を避けるように道の端に移動する。
「大体、君は一切口を開かなくていい。全て私に任せろ。そう言っているのにそれの何が不満なんだ?」
「不満はない! ありがたく思っている。だけど、決心が! 決心がつかん!」
とにかく落ち着かなかった。なんだろう。零も今の感情をうまく言語化できなかったのである。
「いや別に浮気を疑っているわけでもないのに、なぜ決心が必要なんだ……」
「浮気!? 浮気なんて言うなよな! ミラがそんなことするはずがないだろ!」
「誰もそこまで言ってない……」
はぁ、とホークアイは嘆息した。
零も流石に申し訳なく思った。意味不明なことを言っているという自覚はあったのだ。すまない、と言いかけた時のこと。
臨時ニュースです。ひたすら広告を流していた繁華街の巨大ホロにニュース速報が流れ始める。
零とホークアイははっとして上空を見上げた。
(敵襲か!?)
「かつて反政府組織、『砂漠の虎』に所属し、数々の人体実験を行い地球に送還されていたカズヤ・マツヤマが脱獄し行方不明です」
ニュースキャスターは迷いなくそう読み上げた。
「松山が脱獄?」
「なんだって?」
零とホークアイは口々に声を上げた。繁華街も一瞬静まり返った。
「敵襲でないからよかったものを……機体をすぐに上げられる状態じゃないからな」
「ああ、ブラボーⅡの面々は未だ満足にスクランブルできないなと思って一瞬肝が冷えた……敵襲でないのはよかったが、ラプターが気に病まないといいが」
ミラを実験室で生み出したマッドサイエンティスト。松山の脱獄。これは大ニュースである。
「お二人さん、軍人? でもブラボーⅠの人間って雰囲気じゃあないね」
近くにこちらを見ているアジア系のスレンダーな女が佇んでいた。
(韓国系っぽいなぁ……いや、中国?)
彼女はタバコの煙をうまそうに吐いた。
ふと意識するとタバコの匂いがした。あ、ここは喫煙可能エリアか。ホークアイがつかつかと歩み寄ってどこか怪訝な声で応じる。
「ブラボーⅡの軍人だ。君も軍人か?」
「そ、サイボーグシップ。機体はFR-2 アルバトロス。タックネームはバーニングローズ。シンディー・ウー中尉」
(大型輸送機か。ただの非行ギャルにしか見えないが)
彼女がこう見えて、と言った通り、ピンクのド派手なハイライトをここぞとまでに入れたダークヘア。それからへそが見える丈の短いカットソーにショートジャケットを羽織り、デニムのミニスカートに膝より上まであるニーハイブーツを履いていた。
お上品な文化圏で育った零は内心ドン引きした。大丈夫だろうか、ブラボーⅡのサイボーグシップ。
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