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互いのこともろくに知らない状態での非番の日の口調くらいで気分を害する零ではないし、おそらくホークアイもそう。しかも、軍人とは言えど未だ所属船団も違う。
一本いただくとライターを受け取り火をつけた。
「ドルフィン、君タバコ吸うのか?」
「……元々喫煙者じゃないが、気が向いた時にたまに。十年? ぶりか」
喫煙経験はたまに貰って吸ったことがあるくらいという有様だが、経験がないわけではない。
なんだか懐かしさを感じた。タバコの葉、独特の風味の中にどことなくバニラ香を感じる。
たまに自分を喫煙所に引っ張っていって喫煙に巻き込んだ一人の女性を思い出して、胸の奥に苦いものが広がった。初めて会った時も、その女性は自分にタバコをくれた。
しんみりしていた零は思考を無理やり現実に引き戻した。
「お前も貰えば? せっかくだし」
ホークアイはパッケージを向けられて一瞬戸惑ったような素振りを見せた。
ははぁ、さてはこいつ初体験だな、と零は踏んだ。ブラボーⅡで発売はされていたが、あまりメジャーではなかったし喫煙するサイボーグもほとんどいなかった。タバコなんてものは大抵周りに影響されるか貰って始めるものだろう。
一本タバコを受け取ったホークアイにライターをパスすると、弧を描いたそれは見事に彼の手に収まる。ホークアイは不思議そうに火をつけている。
「そもそもライターすらも初めてだ」
「まずは軽く咥えて。吸いながらじゃないと火がつかない。火がついたらいいか、ゆっくり吸えよ。勢いよく吸うとむせる」
零はそう言って試しに強めに吸ってみた。すると、予想通りタバコの嫌な苦味が喉を刺激した。本当によくできていると彼が感心していると、ホークアイは思い切りむせていた。
「……何が楽しくて吸っているのかわからん」
「最初はそんなもんだろ。俺も初めてもらった時むせたよ。これ、よくできてるな、感心する」
「昨日もブラボーⅡの喫煙者がこの喫煙エリアで感心してましたよ。なんだか全然違うって。これ、開発したのが成人過ぎまでリアルの住民だった愛煙家の方みたいですよ」
「私には合わないと思うが、こっちに来てなかなか新鮮な体験ばかりだ。礼を言う」
慣れてきたのか、ホークアイは結構様になっている。
零は灰皿に長くなってきていた灰を落とした。
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