3. 繁華街 懐かしのタバコ

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「よかったらどこか案内しましょうか?」 「ホークアイ、よかったら遊んでくれば?」  零は彼女がこちらと遊びたそうにそわそわしていることに気づいていた。 (こいつには息抜きが必要だ……うん。ちょっとまだリリースするの心配だけど)  まだカトラリーの扱いははおぼついていない気がするが、一人でないゆえ問題ないだろう。彼女、面倒見が良さそうだ。  零は短くなったタバコを慣れた手つきで処理し、灰皿の中に落とした。 「いや、私には仕事がある。帰るぞ!」  ホークアイも短くなったタバコの火種を灰皿に押し付けて火を消した。 「仕事? 仕事ってなんだ?」  こいつにこれ以上仕事されたら困る。いい加減今度こそ過労死するかもしれない。そう思った零は少々焦った。 「君のお膳立てだ。では、正式に軍人として復帰したら会うかもしれないな。バーニングローズだったか、礼を言う」  ほらさっさと行くぞと背中を押されたので零は歩き始めた。 「よかったのか? ああいう女嫌いじゃないだろ?」  酒の席での下世話な会話などで、零はホークアイの女の趣味をどことなく把握していた。スレンダーでクールな顔つきのアジアンビューティはかなり好みなはず。ホークアイがタバコでむせていても馬鹿にするようなそぶりもなかった。それから男女問わず頭のキレる人間が好みらしいが、そもそも軍人でサイボーグシップ。馬鹿ではないはずだ。  ド派手な髪や服装は零個人の好みとしては受け入れ難いが、年長者をきちんと立てる真面目さにおまけに愛嬌もある。総合的に鑑みるに、ホークアイならGoサインを出すだろう。 (結構好みじゃないのか?) 「君らが気になって集中できない……そんなことしたら君は今夜ラプターに会わず、悶々として過ごすんだろう。気になることはさっさと聞くことだ。君が無理なら私が聞いてやる。さっさとログアウトするぞ。もうそろそろリアルでは夕食が終わった頃だろう」  駅前まで移動する。駅など室内に入り、ログアウトスポットに行けばわざわざ家に帰らずともログアウトできる仕組みだ。 「……わかった」  元来夜遊び大好きなはずのホークアイがここまで協力してくれると言うのだ。零は流石に覚悟を決めた。  どこか落ち着きをなくしている彼らは松山のことをすっかり頭の片隅に追いやっていた。  地球との時差のせいで、この緊急ニュースが入ったとうの昔に松山は地球を脱し、避難民のゴタゴタに紛れてブラボーⅠに入艦していただなんて、二人とも全く想像していなかった。
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