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艦隊ですら敵を見失い、攻撃を受けている有様だ。おそらく敵はデブリ帯に身を潜めている。
やれやれ、と言った様子のサミーは重苦しく口を開いた。
「おそらく敵は既にブラボーⅡを別の宙域に回収済みでしょうね。司令、大統領、被害が大きくなる前に決断すべきかと」
「……司令、撤退指示を。我らはこれ以上人材という宝を亡くすわけにはいかない」
攻撃命令を出す機会に恵まれなかった大統領だが、彼は意外にも冷静だった。
なんの成果も得られずブーメランのように戻ってきた一団だったが、その後、敵の情報は忽然と消えた。
(ショックを受けたのかもしれないな……)
彼らはあまりに純真だった。純粋に、サミーを、そしてサイボーグたちを人間から救おうとしていた。
ブラボーⅠから脱出したあの時、ゼノンは疑うこともなくサミーに背中をさらけ出して仲間として迎えようとした。サミーはその純粋な心を利用して騙し討ちをしキャシーを救ったのだ。
ゼノンは陰謀論を流すことができた、サミーが思うに馬鹿ではない。
これすなわち嘘をつき、他者を欺くことが可能ということだ。
サミーを絶賛しリクルートしてきたあの時、彼らは純粋にサミーを仲間として迎え入れようとしていたのだ。彼らはサミーを心から信じようとしていたのだ。
人間を殺したことにも、ブラボーⅡを沈めたことにも、それからソックスが死ぬきっかけを作ったことも許せない。あれほどキャシーを、そしてドルフィンやラプターを悲しませ傷つけた、それは疑いようもない事実である。
だが、彼らはサイボーグたちに通信を拒否され、挙句チェックメイトにまで袖にされ……。
サミーは思った。ゼノンほど、健気で哀れな人工生命体もいるまいと。
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