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時を遡り、昼過ぎの繁華街。ミラは驚きを隠せなかった。百貨店の前、シンボルになっているトラの像の前で待ち合わせたのだが、久しぶりに会ったシュンイチは自分よりも背が大きくなっていた。
それはライオンの遺伝子を組み込まれたラビも同様だった。ラビは元々背が高かったが、今やアメフト選手かというような大柄な筋骨隆々な大人の男になっていた。
(みんな大人になったなぁ……私より少し小さいかな? ってくらいだったはずなんだけど)
一方、ワッカはあまり変わっていない。
とりあえずカフェにでも入るか、と言ったシュンイチの横顔を見上げる。すると、彼がこちらに優しげな眼差しを向けて微笑んだ。
彼は昔心臓が悪かった。手術をして良くなったとは聞いていたが、今はどうなのだろう。
「シュンイチ、元気してた? 身体は最近はもう大丈夫?」
「俺は大丈夫だけど……ミラ、首本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「本当か?」
今日ももちろんミラは首にコルセットをはめていた。
シュンイチはフィリップに顔を向けた。
(信じてないなぁシュンイチ)
「搭乗機撃墜されて緊急脱出してるから世間的には……おおごと?」
「フィリップ! バラさない!」
「「撃墜!?」」
シュンイチとラビの声が見事に重なった。シュンイチは心配そうに口を開いた。
「それは大丈夫じゃないだろ?」
「私は大丈夫だけど、機体は木っ端微塵で……緊急脱出して、その時戦ってた僚機に拾われてここまできた」
僚機……と言ってしまったが嘘ではない。嘘ではないがなんとなくレイに申し訳ないミラであった。
だが、彼のことをどう言えばいいかうまく頭に浮かばない。
「ミラ、彼氏って言ってやれよ。ドルフィンが泣くぞ」
「あ、今彼氏の家に泊まってるって言ってた例の彼氏か! ってことはパイロット? 今度紹介してよ。ミラに彼氏かぁ」
ワッカが目を輝かせた。ミラはどう説明しようかと少々戸惑った。
(本体に会わせるのは無理だけど……)
「え、彼氏!?」
シュンイチも驚いている。シュンイチにもメッセージで言っておけばよかったと思った。紹介したい気持ちはある。でも軍人でもない一般人である彼らがフルサイボーグに抱いている印象はわかりきっていた。
生まれながらの身体障がい者。エリートでプライドの高い変人。
そのうちユキのことは紹介したいと思っていたが、彼らは無理して合わせることもないだろうとミラは思っていた。
でも、言わないわけにはいかない。今滞在しているのはアサクラ家の屋敷だ。
「……うーん、モニター越しかドローンでよければ」
「あー、ミラの彼氏さ。サイボーグシップなんだ。つまり、フルな方のサイボーグ。あ、いい人だよ。俺もその人の実家に泊まってる。ってなわけでパイロットだ、腕はピカイチ」
ミラはびっくりしてフィリップを見た。フィリップ、あんなにレイと仲悪かったのに。
あの閉じ込め事件以来どうも意気投合したようだ。そうとしか思えない。
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