6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと待て、サイボーグシップ? 昼間の、確かホークアイという男とは別だよな?」
シュンイチの声はどこか怪訝そうだ。
(ああ、言われると思った……)
「ああ、ホークアイとは別。みんなドルフィンって呼んでるパイロット。俺たち、実は今、アサクラファミリーのお屋敷にいるんだ……ドルフィンってのは、つまり……」
バラしちゃってもよかったのか? とフィリップが視線を投げてきた。
「え、あの金持ちエリアの大豪邸の?」
「アサクラってあのアサクラか?」
シュンイチが焦ったように声を落とした。ラビもあまりに驚愕したのか声が掠れていた。
ミラが小声で補足した。
「うん。あそこのお屋敷の息子さんがドルフィン」
「レイ・アサクラ……ってこと? え……ちょっと待て、どういうことだ? あそこの息子、原子力施設のテロ以降、音沙汰なしだろ……あ、サイボーグシップか。まさか、身体が戻らなくてサイボーグに!」
ミラは、流石ワッカ詳しいなあと感心した。冷静沈着で誰よりも頭がキレるのがワッカだ。
「シュンイチ、大丈夫。俺も最初は疑ったけど、本当にいいやつだし、本当にミラのことを大切にしてる。な、ミラを信じてくれよ。俺もあいつがいなかったら、今頃ここにはいなかったかもしれない……ニコだってあいつがここまで運んでくれたんだ。たかがぬいぐるみだって普通の大人の男なら馬鹿にするかもしれないけど、あいつはそんなことしない。ちゃんと大切にしてくれてるんだ」
「でもなあ……朝倉の御曹司とか、しかもフルサイボーグ……俺が言うことじゃあないけど」
シュンイチは言いにくそうに言葉を濁した。彼が言いたいことはミラもフィリップも手に取るようにわかっていた。
「身分差とか、住む世界が違うとか思わないことはないけど、だからこそうまくやってるんだ、ミラとドルフィンは。って俺は思うよ。ま、今度会ってみてよ、な、ワッカ姐は仲良くなれると思う」
結局、久しぶりの再会は重苦しい雰囲気のまま終わった。ワッカは終始雰囲気を明るくしようと色々と話題を振ってくれた。今、彼女はセミサイボーグの理学療法技師士の試験に合格して働き始めたばかりと言っていた。なるほど、あそこでサイボーグになったのかと一瞬で理解してくれただけのことはある。メカニック義足や義手にも詳しいのだから、フルサイボーグに理解があるのも頷けた。
シュンイチも研究職としての仕事は充実しているらしい。
ラビもいくつか掛け持ちで働いているようだ。荷物の配達だとか、引越し業者のヘルプ、今は避難所でもいくつか力仕事をしているらしい。
ユキも調理師として働いているが、しばらく三人とも会っていないようだ。元気なことはメッセージを通して知っているらしい。
結局、シュンイチはフルサイボーグと付き合うのは心配だと重ね重ね言ってきた。
(ユキはどう思うだろう……)
ミラとフィリップはユキの連絡先を聞いた。だけど、とてもではないがしばらく連絡していないのにいきなり電話をかけるなんてする勇気もないし、メッセージの申請をする勇気も出ない。
それに、ユキにまでレイとのことを反対されたら立ち直れないかもしれない。
他のきょうだいたちのことも聞いたし連絡先も教えてもらったが、ユキと同様の理由で会いたくてもしばらく会える気はしなかった。
ミラは意気消沈のまま屋敷に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!