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(これが霊障の元凶?)
女の霊は、九十九の後ろ頭をジッと見ている。霊能力のない九十九は気づいていない。
知らぬが仏とはこのことだ。
占うまでもなく正体は分かってしまったが、先ほど言ったように、ヨシタカに除霊の力はない。出来ることは、霊を説得して上がって貰うだけである。
それをするには、彼女の未練の理由を調べる必要があるが、このクソ生意気な男のために骨を折る気にはなれないので黙っていた。
そのまま九十九は席を立つかと思われたが、「じゃあ、視るだけでもいいや」と、占いを続けようとした。
「知らない方が良いこともあります」
知ったことで恐怖に陥り、一人でいることが出来なくなり、気が変になるかもしれない。
「視えているんだな⁉」
「……」
「教えてくれ! 女か? もしかして、こいつじゃないか?」
九十九は、心当たりがあるのか、スマートフォンで若い女性の写真を見せてきた。それは、確かにすぐ後ろにいる女の霊とドンピシャの顔だった。
しかし、ホステスではなく、普通のギャルである。そこに違和感がある。
「この方は、どなたですか?」
「俺の、俺の……元カノだ」
「お名前は?」
「竹石美鈴。ガールズバーではミイチャムと名乗っていた」
「ガールズバーの店員ですか。今はどちらに?」
すでに死んでいるとは思ったが、わずかに残った生霊の可能性を探る。
「死んだよ……。数週間前に……」
亡くなっている。そのことにヨシタカは軽く絶望する。
「死因は?」
「突然死。俺が知った時には、すでに葬式も終わっていて、詳しくは分からない」
「恋人だったんですよね?」
「彼女が死ぬ前に別れた……。だから、それを悲嘆して自ら死んだんじゃないかって思うんだ……」
「自死?」
「ああ……。そんなに思いつめていたなんて気づかなかった」
九十九は嗚咽を始めた。
ミイチャムの霊は、黙って見ている。
ヨシタカは、自死にしては何か違う気がした。しかし、それは本人の霊に聞けば分かることだろう。
「ちょっと本人に聞いてみましょうか」
「え?」
九十九が青ざめる。
「何か問題でも?」
「あ、いや、幽霊と話せるなんて、凄いなって。ああ、そうだ、それなら聞いて欲しいことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「実は、一つだけ困っていることがある。あいつのスマホには、俺の居場所が分かるGPSが入っていて、解除が出来なくて困っている。これは、俺の今後のアイドル人生に影を落とすと思っている。だって、それを手に入れた誰かに俺の居場所が筒抜けになるだろ? だから、スマホの暗証番号を聞いて貰えないか?」
九十九が一番必死な顔になった。
「彼女のスマホをお持ちなんですか?」
「持ってはいないが、場所は分かる。仲が良かった時に、俺のスマホにも彼女のスマホの位置情報アプリを入れた。これでお互いの居場所を教え合っていたんだ。別れるときに解除すれば良かったんだが、それどころじゃなくて、あとから思い出した。その時にはもう亡くなっていた」
ずっと九十九だけを見ていたミイチャムの霊が、今度はヨシタカを見た。
「私が視えているのね?」
「ドキ……」
「ねえ、私が視ているのね? 視えているんでしょ?」
今度はヨシタカに憑こうとしているのか、ミイチャムの霊がヨシタカに迫ってくる。
未成仏霊は、自分が視える人を常に探している。それは、苦しい状態から救って欲しいからだ。
事故死であれ、他殺であれ、自死であれ、まともな死に方が出来なかった場合、未成仏霊となってしまう。そうなると、自分一人でそこから抜け出すことはとても難しい。誰かの助けが必要になる。
だから、自分が視える人を必死に探して訴えてくることもある。
「お願い。私の願いを聞いて」
(ほら来た!)
「この人を助けて欲しいの。彼は命を狙われている。でも、私には力がなくて。それでずっと憑いているんだけど、彼は怯えるばかりで」
「え? そっち?」
驚きであった。恨んで憑いているのではなかった。自分を救って欲しいのではなく、生きている元カレを救って欲しいと願うなんて考えられない。
(これこそ、究極の純愛ではないか?)
ヨシタカは、ミイチャムの優しさに感動した。
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