明かされた死因

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明かされた死因

 いけ好かないアイドル男のためじゃない。  彼女のため。  それなら、ぜひとも手伝ってやりたい。 「彼の周りで霊障を起こしたのはあなたですか?」 「彼に気付いて欲しくて、警告の意味で多少音を立てただけ」 「あなたの名前を聞かせてください」 「私の名前は竹石美鈴」 「ミイチャムさんですよね?」 「ええ。私のことはミイチャムと呼んで」 「では、遠慮なく。ミイチャム、あなたの最期について教えてください」  ここで、九十九が怖い目になってこちらを凝視した。  この男は、ミイチャムの死に何かしら関りがあるかもしれない。  その可能性を念頭に入れて、慎重に言葉を選ばなければいけない。 「彼には言わないでくれる?」 「はい」  いよいよ九十九が怪しくなる。  だがヨシタカは、大人の恋愛のごとく一切表情に出さないようにした。 「私、彼には内緒でキャバクラで働いていたの」 「……」 「彼とは、ガールズバーで働いている時に知り合っている。だけど、いろんな借金が嵩んで、お金が必要になって、軽い副業のつもりでキャバクラのホステスとして働くことにしたの」  ガールズバーとキャバクラがどれだけ違うのか、ヨシタカにはよく理解できない。  しかし、ここで質問を返すと九十九に何を話しているのか知られてしまう。  ヨシタカは、一方的にミイチャムに話させることにした。 「それで?」 「彼は、ガールズバーは分かっていたことだから仕方ないけど、他では絶対に働くなって言うから、ずっとウソを吐いていた。お願い、絶対に言わないでね」  ヨシタカは、黙って力強く頷いた。  九十九は、かなり束縛が強かったようだ。 「私が死んだのは、そのキャバクラの控室だった。そこに戻ると、『ミイチャムへ』って丸っこい字で書かれたメモが貼ってあるペットボトルのお茶が机に置かれていて、それを飲んだら気持ち悪くなって苦しくなって、それで死んだと思う」 「そうだったんですか」  とても重要な情報が得られた。  つまり、九十九が言っていた自殺ではなかったとなる。 「誰のものだったか分かりますか?」 「分からない。たまにこういった差し入れはあるんで、全然疑わないで飲んじゃった」  誰でも飲んで良いのなら、わざわざ名指しでそこに置かない。明らかに、ミイチャムを狙っていた。  彼女は誰かに殺された。そして、容疑者第一号は九十九だ。  ただ、ミイチャムは、九十九を1ミリも疑っていない。九十九に怪しい行動はなかったのだろうか? 「あなたは、自ら死んだと言われていますが、ご存知ですか?」 「そうなの? そんなつもりはないのに」 「それでは、先ほどのあなたの言いたかったことについて、詳しく教えてください」 「彼をとても恨んでいる女がいて、彼を狙っている。私は、心配で彼のそばから離れられない」  それが現世への未練となっているようだ。 「誰なんでしょう?」 「多分、彼のファンだと思う。名前とかは知らない」  地下アイドルにも熱烈なファンはいる。その中には執着をこじらせて悪意となり、刃を向けるものも珍しくない。  個人で活動している地下アイドルは、事務所の後ろ盾も脆くて無防備で、裸で歩いているようなものとも言える。 (待てよ? もしその危ないファンが、九十九に彼女がいることを知ってしまったら?)  怒りの矛先が、ミイチャムに向けられたとしても変ではない。  九十九と違って知らない女なら、ミイチャムに気付かれずキャバクラに潜り込み、毒入り茶を置いていくことは可能だ。 「ちょっと待ってくれ!」  霊視中なのに、九十九が突如割って入った。 「今、霊視中ですが」 「暗証番号はどうなったんだよ」 「ああ、そうでしたね。聞いてみましょう」  ヨシタカは、ミイチャムに「あなたのスマホの暗証番号を覚えていますか?」と聞いたが、「暗証番号じゃなくて瞳認証よ」と言われて諦めざるを得なかった。 「九十九さん、瞳認証だそうです」 「えー!」 「それなら逆に誰にも中を見ることができませんから、これ以上の安心はありませんね」  ヨシタカは九十九に諦めるよう説得した。 「ミイチャム、他に何か思い出したことがあれば教えてください」  ミイチャムは、苦しそうな顔になった。 「これ以上はよく思い出せない。ごめんなさい。苦しくて、苦しくて、こうして彼の近くで他の霊から守るのがやっとで」  そんな苦しい状況でも、九十九の身を案じている。健気な女の子だ。 「ありがとうございます。霊視は以上になります」  ヨシタカは、九十九とミイチャムに向かって深々と頭を下げた。
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