メン地下アイドルの実体

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 メンバー紹介のポスターが並んでいる。 『夢月』 ブルーダイヤモンド 今夜も決めるぜ! 『Cari』 ピンクサファイヤ 甘い夜を君に。 『ユウタ』 パープルアメジスト 僕は君だけのものさ。 『Amuta』 プラチナシルバー お帰りなさい、プリンセス。 『☆ハロ』 ゴールド いつも一緒だよ。  それぞれの顔写真を切り抜いて貼り付けただけの手作り感満載で、カラーペンを使って名前と宝石、貴金属名、歯の浮くような一言が書かれている。  下手な字でも、本人による手書きであることが重要なのだろう。  九十九夢月は、青い金髪。パーソナル宝石はブルーダイヤモンド。  髪色と宝石の色を合わせて、パーソナルカラーにしているようだ。 (『Cari』はチャリ? 『☆ハロ』って、最初の☆を読むのか? ホシハロ?)  読み方まで下調べしてこなかった。読めないとプリンセスじゃないと見破られてしまう。  焦っていると、あとから入ってきた子たちが、「ワー!」と歓声を上げて、推しポスターに押し寄せて自撮りを始めた。  ツインテール、ポニーテール、縦巻き。年齢は様々。  ツインテールの子は、一番遠い『☆ハロ』のポスターめがけて一目散に走った。  それぞれが推しポスターの前を陣取る。 「愛しのスタハロ様! めちゃくちゃてぇてぇ!」 「キャリ様! 尊くて泣ける!」 「あーん、アムタぁ! なんでそんなに素敵なの?」  読み方が分かってスッキリする。 『夢月(むーん)』には騒ぐファンが群がらない。  女子たちは、推しの顔写真に頬ずりしたり、ぎりぎりまでチューを形作った唇を近づけたりしている。それを見かねた受付が注意した。 「ポスターには触らないで! ポスターの複製をグッズ販売するから、購入してください!」  下をよく見ると、小さな字で「複製品 一枚10コイン」と書かれていた。  見るのは無料で、触りたければお金を払って買えということだ。 「一枚いくらですか?」 「20コインです」  コピーなのに、一枚二万円。 「安い!」 「買います!」 「私も!」  金銭感覚が完全に麻痺している。  ここで買うのかと思ったら、「そろそろ始まるから行こうか」と、奥に入っていった。 「あれ? 買わないの?」  ヨシタカが思わず言うと、ツインテールの子が振り向いて、「あとでグッズ販売の時間があるから、推しから直接買うのよ。そうしないと、顔を覚えて貰えないでしょ?」と、親切に教えてくれた。 「ありがとう。初めてだから知らなくて」 「そうなの? じゃあ教えてあげる」  ツインテールは、気さくで、すぐに仲良くしてくれた。初めて入った教室に一人はいるタイプ。 「私はアユミ。あなたは?」 「えっと、ヨ……、ユキ……」 「ヨユキ?」 「いや、違う、えーと」 「決まっていないなら、私が付けようか。ユユキンってのはどう? 可愛いでしょ? 私のことは、アユミンって呼んでね」  本名を教える必要は、全くなかった。そして、ユユキンは可愛いのだろうかと、ちょっとだけ疑問に思った。 「ユユキンは誰推し?」 「☆ハロ(すたはろ)かなあ」  ついさっき知った名前を出す。 「私もだよ! 偶然だね!」  それを知っていたので選んだヨシタカは、ちょっとだけ胸が痛んだ。 「☆ハロ(すたはろ)は可愛いよね」 「そうだね。てぇてぇだね」 「ね、☆ハロ(すたはろ)のどんなところが好き?」  その質問はやめて欲しかった。 「全部」 「そうだよね。私は、特にメンバーの中で一番一生懸命で健気だから好きなんだ。なーんか、小型犬って感じ」  王子様コンセプトじゃなかっただろうか。 「ファンサービスも一番だから」  ☆ハロ(すたはろ)のことはどうでもよいので、夢月(むーん)の話題を振った。 「夢月(むーん)って、人気がないのかなあ?」 「なくはないよ。でも、あまり表に出さない人が多いから、そう見えるのかも」 「どういう意味?」 「彼は、俺様だから」  アユミンは、そういうと大きな口を開けて笑った。何が面白いのかヨシタカには分からない。 「俺様だとファンは大人しいの?」 「そりゃそうでしょ。気が強い子や我儘な子、気の短い子は、お互いにぶつかるもん。どうしてもファンとして残るのは、大人しい子、逆らわない子、言われた通りにお金を出す子。それに、夢月は、『はしたなく騒ぐ子が大嫌い』って、いつも公言している」 「はあ」 「その事は、あとでよく分かると思うよ」 「どうして?」 「あ! ライブが始まる! おしゃべりはここまで!」  アユミンは、あっさり意識を舞台に向けて、もうヨシタカを見ていない。  置いてきぼりを感じたヨシタカは、仕方なく舞台を見た。  カラフルなスポットライトが煌びやかに当たる舞台上に、5人が出てきた。  小さな小さな舞台。好きなアイドルが手の届きそうなすぐそこにいる。  興奮したプリンセスたちから、ワーワーキャーキャーと大歓声が上がった。 (ミイチャムの話が本当なら、この中に危険人物がいるはずだ)  客席をさりげなく観察する。  特に怪しい動きを見せるものはいない。  あまりジロジロ見ていると、自分が一番の不審人物になってしまう。探すことを諦めて舞台に集中した。  5人が並ぶと、☆ハロは一番小柄で小型犬って表現はピッタリだった。  アユミンは『LOVE ☆ハロ』と書かれた手作りのウチワを懸命に振っている。 「Cari(きゃり)様!」「ユウタ様!」「Amuta(あむた)様!」「☆ハロ君!」  歌が始まっても、推しに見て貰おうとひたすら名前を叫んでいる人が大半だ。  アユミンは、☆ハロが私を見てくれたとはしゃいだ。  夢月は、最初後方で踊っていたが、全員が平等になるようにグルグルと位置を変えるので、数曲目には前に出てきた。  見られないよう、ヨシタカは揺れるウチワの影に巧みに隠れた。
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