メン地下アイドルの実体

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 大興奮のライブが終わると、あっという間に人が掃けていった。 「随分、キョロキョロしていたけど、誰か探していた?」  アユミンに聞かれて、心臓を掴まれたかのようにドキリとした。 「あ、いや、そうじゃなくて、初めてだから、つい物珍しくて」  アユミンは、同意するように何度も頷いた。 「最初は皆そうよね。でもすぐに慣れるから。それよりも、グッズ販売が始まるから急ごうよ。限定グッズが売り切れちゃう!」 「そうだね」  グッズ販売コーナーに行くと、5つの机が置かれていて、机上に限定グッズが並んでいる。  それぞれメンバーカラーに色分けされているので、誰の机か迷わない。  メンバーは来ていないのに、どの机にもすでに行列が出来ていて、ファンたちは顔を紅潮させて、今か今かと心待ちにしている。  スタッフが叫んだ。 「コインをお持ちでない方は、先にこちらで両替をお願いします!」 「両替?」 「グッズもチェキも、コインでしか買えないよ」 「持っていないんだけど」 「じゃあ替えておいでよ。ここで待っているから」 「アユミンは?」 「私はもう持っているよ」  いつの間にと、不思議に思いながらヨシタカは両替に向かった。 『両替コーナー』と書かれたところにも、多くの人が順番待ちしている。  ヨシタカもそこに並びながら注意書きを読むと、小さな字で『コインの現金化は出来ません』とあった。 (ウソだろ。一度払ったら戻ってこないってことじゃないか)  他の人の動きを見ていると、電子マネーか現金で払い、コインを受け取っている。万札を何十枚も出している人がいて、とても驚く。  ヨシタカは、いくら出すか悩んだ。  ファンではないので、千円だって惜しい。しかし、少しは替えないと怪しまれてしまう。  料金表を見ると、チェキが2コインで最低額だった。  自分の番が来た。二千円差し出すと、2コインを無愛想に渡される。  それを大切に握りしめて、アユミンの所に戻った。 「前回のレートって、いくらだった?」 「980円。今日は1000円でしょ。ちょっとだけ得しちゃった。多めに両替しておいてよかった」 (そういう仕組みか)  返金されないので、コインを持っていれば、使おうとしてライブに足を運んでしまう。  そこでまた買いたくなって両替する。次回はレートが高くなるかもと思えば、多めに両替してしまう。  簡単に抜け出せないように出来ている。これが沼だ。 『☆ハロ』の列にアユミンと並んだ。  どの机も列が後ろに伸びていくが、青だけは5人並んだだけでそれ以上増えない。  人数の差は人気の差。どうやら、夢月の人気はグループ内で下のようだ。  ヨシタカにとっては、探し出す手間が減るので少ない方がありがたい。  並んでいる5人を観察した。年齢層が他より高い。  一人目。眼鏡を掛けた金髪おかっぱ頭の40代後半。豊満な体に身長も高い。つまり、でかい。花柄のトレーナーにロングスカート。  二人目。とても小柄で、前にいる一人目の半分しか体積がない。顔は40代前半だが、若者向けのニットワンピースを着ている。  三人目。背の高い美女。20代後半。腰まで伸びた黒のストレートヘア。全身真っ白のパンツスーツ。  四人目。30代前半。ガリガリ。柔らかな生地を使ったパステルピンクのパジャマのような衣服。ファッションが年齢と合っていなくて、ちぐはぐしている。  五人目。20代前半。大きな胸と細い腰。ミニスカートから、すらりと伸びた二本の生足が若さを強調している。  まだ時間があるようなので、軽く霊視した。 (ウワッ)  怖いものを視た。  全員から、恋愛感情というよりは、怒りや恨みでドロドロしている。  特に四人目が酷い。怒りの感情が、頭頂部からマグマのようにふつふつと湧き出している。この中で一番生霊を飛ばしていそうだ。  アユミンが耳元で囁く。 「ね、青は大人しいタイプばかりでしょ」  大人しいというよりは、感情を抑え込まれていて、それももはや限界に近く、爆発寸前に見える。 (このままでは、何か起きるかもしれない)  嫌な予感がした。
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