メン地下アイドルの実体

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 スタッフが出てきた。 「お待たせしました。プリンセスの皆様。今からグッズ販売を開始します。 さあ、お待ちかねのプリンスたちが登場です。ユウタ! Cari(きゃり)! Amuta! ☆ハロ(すたはろ)!」  名前を呼ばれたメンバーが順番に出てきて、決めポーズと共に、「僕は君だけのものさ」「甘い夜を君に」「お帰りなさい、プリンセス」「いつも一緒だよ」と、お決まりのセリフを言うと自分の席についていく。  そのたびに、ワーワーキャーキャーと歓声が上がって、フロア全体が興奮の坩堝と化す。 「最後に、夢月(むーん)!」  九十九(つくも)が出てきて決め顔を作ると、「今夜も決めるぜ!」と叫んだが、誰一人騒がない。夢月のコーナーに並んでいたファンたちですら、無言でいる。  彼だけはそれでも構わない様で、平然と自分の席に着く。  先頭の人から、順番にグッズを購入していく。  アユミンは、あらゆるグッズを買いまくり、チェキを撮って握手して、大満足の顔で終えた。  ヨシタカは、「チェキをお願いします」と、2コインを出した。後ろのフォトスポットに案内されて、いらないツーショットのポラロイド写真を撮ると、そそくさと退散した。 「あれー? サインはいいの?」  ☆ハロがわざわざ声を掛けてくれたが、追加料金が掛かりそうなので、「いえ、大丈夫です」と断ると、「本当に、いいの?」と、きゅるんとした切ない表情を向けた。  それを見た周囲のファンたちからは、「キュンとした」「尊い」「泣ける」「美丈夫過ぎる」と、賞賛と嘆息が止まらない。  その時、「キャー!!!」と、大きな悲鳴が上がった。  その場にいた全員が驚いて声のする方に注目すると、女が瓶に入った無色透明の液体を九十九に掛けようとして、スタッフに止められて暴れている。女相撲取りのような体格を持った一番目の女も、協力して動きを押さえている。  凶行に及んだのは、先ほど四番目に並んでいた30代前半の女だった。 (やっぱり、やった!)  九十九の後ろには、このことを予見していたかのようにミイチャムの霊がいた。彼女は、必死に九十九の体を後ろへ引っ張っている。 「離しやがれ!」  女は、必死に抗って一瞬の隙を突いて液体を撒いた。  ミイチャムが体を引っ張っていたお陰で、九十九は間一髪難を逃れた。そのまま、スタッフに支えられて逃げていく。  床に零れた液体から刺激臭が漂ってきて、スタッフが叫んだ。 「劇薬だ! 吸い込まないで!」  ヨシタカは、手持ちのチェキで鼻と口を覆った。思わぬところで役立った。 「グッズ販売は中止です! 全員ここから出てください!」 「キャアアー!」「イヤー!」 「押し合わないで! 走らないで!」 「ユユキン、早く出よう!」  パニック状態の中、ヨシタカとアユミンは、大勢に押されるように会場を出た。  外に出て一息つく。 「ハア、ハア、驚いたね」 「ああ、驚いた」 「あの人、夢月様に恨みがあったのかなあ」 「そうなんだろうね」  九十九に被害がなかったのが不幸中の幸い。ミイチャムも一安心だろう。 (ミイチャムを殺した犯人と今回の犯人は、同一人物なんだろうか?)  ミイチャムが成仏するには、それを解決する必要がある。
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