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わたしはどうして魔法を使えるのか。自分のことなのに、実はよくわかっていない。物心ついたときには手を使わずに物を動かすのは、普通のことだった。それが普通でないと気づいたのは、両親がいなくなってからだ。
わたしはずっと両親に守られていて、特別な力を持つことを隠されていた。戦争によって唐突に身寄りを失ったわたしは、人前で力を使ったとき、奇異な目で見られた。
世間では話者という存在は知られていた。しかし、わたしは力を扱う時、呪文を必要としなかった。呪文を話すから話者と呼ばれる。つまりわたしは、話者ですらない、異質な何がだと捉えられたのだ。
「ねえ、ロイス。わたしが魔法で持ち上げて連れてってもいいんだよ」
「断る。それだと君一人の力だけで登ることになるだろう。いくら魔法だろうと、大人一人をあんなところまで運ぶのはかなり疲れるはずだ」
「そう? 歩くよりはマシだと思うけどな。後で後悔しないでよ」
レイグランス山の麓にて、わたしとロイスは見えない頂上を見上げていた。
「行くと決めた以上、後悔なんてしないさ。それに、何より君が行きたいんだろう?」
そう言うと、ロイスは外套を翻して歩き始めた。
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