<7・演劇。>

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 引きつった声で叫ぶ可南子。そりゃ、ハツミからすればこんなこと言われて、はいそうですかと差し出せるものなんて何もないだろう。よくよく考えたら、どれをあげても普通に死ぬ気がするから尚更に。 「“そう、じゃあ”」  そして当然。  そんな拒否を、怨霊が受け入れるはずもない。 「“じゃあ、全てを貰っていきましょう。貴女の持っているすべて、すべてすべてすべてすべてすべてスベテスベテスベテスベテスベテスベテ!わたしのものにしてあげるわ、うふふふふふ、あはははははははははははは!まずは、その煩い口から引き裂いてあげましょう?”」 「“い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!助けて、誰か、誰か助けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!”」  ここで、音声。今は、愛美がリアルタイムで声を出す。 「“ハツミちゃん?なんか騒がしいけど、どうしたのこんな時間に?”」  母親の声に、幽霊はぴたりと動きを止める。そして忌々しそうにドアの方を振り向くと、こう吐き捨てて消えていくのだ。 「“……邪魔が入ったわ。まあいい、時間はいくらでもあるもの。貴女がこの家に住んでいる限り、好きな時に貴女のスベテを奪える。それを、楽しみにしていることね……”」 「はい、暗転。カット!」  パン!と愛美が手を叩いた。これで、このシーンの練習は一度終わり。みんなで集合して、反省点を洗い出すという作業に入る。  特に、母親の一台詞しかなかった愛美は、ほとんどの流れを俯瞰で見ることができる立場だ。彼女は厳しい顔で二人を見ると、イマイチね、とため息をついた。 「寧々ちゃんが心配なのはわかるけど、明らかに乗り切ってないってかんじ?」 「……すみません」 「ほんま、申し訳ないです」  それは、正直つゆりも自覚していたことだ。神戸を垂れているあたり、可南子もわかっていたのだろう。どうしても練習に集中できない。寧々のことが頭を過ぎってしまう。何かわかればその都度和江たちが報告してくれることになっているし、自分達は寧々が戻ってくると信じてこの民宿で待っているしかないということは理解できているのだが。
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