会いたくなったら、鏡を見て

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 目覚めると、涙を拭うところから始まる。  風で揺れるレースのカーテンの向こうは、見惚れるくらい澄みきっている青空。  ふっと笑って、貼ってあるポスターに視線を移す。 「エイト」  彼の名前を呼び、ワイヤレスイヤホンを耳につけた。  あなたに会いたい。  泣きたくなる時は、いつだって彼の歌を身体中に流し込む。 「おはよう」  ダイニングテーブルには、キツネ色に焼けたトーストと、ブルーベリージャム。  私の好きなトマトとチーズのオムレツも、リクエストしたかぼちゃのスープも置かれている。 「やった。いただきます」  席につき手を合わせると、洗い物をしている母は嬉しそうに笑っていた。 「美味しい」  ちゃんと味がすることに、涙が出る時もある。  きっとその涙にも、エイトが溶けている。 「お母さん、今日は香苗と貴之とカラオケ行くから」  100カラットの曲縛りでって、二人と約束してあるんだ。 「あんまり遅くならないでよ。この前だって、」 「わかってる。ご馳走さま。行ってきます」  母の小言から逃げるようにリビングを出た。  玄関にある姿見に映ったエイト。  私の涙に、笑い皺に、今日も彼は生きている。  あなたに会いたい。  虹を飛び越えて、青空に羽ばたいて、あなたに会いに行きたいけれど。  もう少しだけ私は、あなたの愛したこの世界で生きていく。 「行ってきます」  鏡の中のエイトに、涙混じりに微笑んだ。         【おしまい】    
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