会いたくなったら、鏡を見て

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 目覚めると、涙を拭うところから始まる。  風で揺れるレースのカーテンの向こうは、ムカつくくらい澄みきっている雲一つない空。  イライラした気持ちで起き上がり、ベッドから出ると、窓際と反対側の壁の前に立った。  貼ってあるポスターの中で、私の一番会いたい人が微笑んでいる。 「エイト」  彼の名前を呼び、唇を指でなぞった。  三年前にデビューしたボーイズグループ『100カラット』の、中心メンバーだったエイト。  彼が歌うと恋が生まれ、彼が踊ると希望が生まれると言われていた。    かくいう私も、彼に恋も希望も与えてもらった一人。  彼に出会ったおかげで今の自分があると言っても過言ではないくらい、エイトに心酔していた。  住む世界が違っても、手が届かない存在でも、そんなことは関係ない。  私はエイトを愛している。 「エイト」  あなたに会いたい。  彼の唇に自分の唇を重ねると、インクの匂いが鼻をくすぐって虚しさが広がった。
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