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迷探偵inマモル
夕食に、大好物の「山盛りタルタルソースがけ鶏の唐揚げ」をいただき、風呂に入って今日の汗と疲れを流す。自分の部屋に戻ると、エアコンをがんがん効かせ、ベッドに敷かれたタオルケットの上に仰向けに寝転がる。目を閉じてこれまでの出来事を振り返った。
ぼくは難しい問題にぶちあたると、AIでできた二人のチャットボットを脳内に登場させ、妄想しながら解決策を探る特殊能力(またの名を妄想)がある。早速、名探偵と助手のミニチュア版を召喚しよう。
「ではミニワトソン君、今までのポイントを整理してくれたまえ。」
「随分と上から目線だな、ミニホームズ。まあいいが・・・マモル少年は中学校の図書室でタヌキに遭遇し、誰にも連絡せずに逃がしてあげた。」
「さよう。だがそれでは不十分だ。大事なことを見逃していないかね。わが助手よ。」
「相変わらず失礼な物言いだな・・・君が言いたいのは、タヌキの瞳がまん丸で真っ黒だった、ということかね? ミニホー。」
「名探偵に向かってミニホー言うな! だが、その通り。ただし、もう一つ重要な町村少年の目撃証言がある。それは、シッポだよ。大きめで、太い縞模様だったということだ。わが助手よ、君はこれをどう推理するかな?」
「あんたも名医を捕まえて助手助手言うな! 転校してきた、『林田真美瑠』と名乗る少女。『彼女も』丸くて黒い瞳が可愛い。」
「少し私情が入っとらんかね?」
「まあ多少・・・そんなことはどうでもいい。もう一つ。彼女が居眠りした時に出したシッポ。証言によると、大きさ・模様が、少年が目撃したタヌキのシッポと一致している。故に、林田真美瑠は、図書室で遭遇したタヌキが変身した姿である。」
ぼくの脳内のミニワトソンは、自慢げに鼻ひげをこすった。
「わが助手よ、そう結論づけるのはまだ早い。」
「いちゃもんかい。名探偵さん?」
「まあ落ち着きたまえ。気になる点は二つある。一つは、彼女は、ただタヌキが化けただけのものなのか? もう一つは、彼女の正体は本当に『タヌキ』なのか?」
「ミニホー。二つとも同じことを言っているように聞こえるが。」
「またミニホー言ったな! 少し調査が必要だということさ。ここからは町村少年に調べてもらおうじゃないか。」
ぼくは名探偵たちに、調査を丸投げされた。タヌキのことをそんなに知っているわけではない。勉強机に座り、ノートパソコンを開いてタヌキのことをいろいろ調べてみた。
「ミニホームズさん、いくつか分かったことを報告します。」
「よろしく頼む、少年探偵君。」
「まず、第一にタヌキの食べ物です。雑食性で、は虫類、昆虫、哺乳類から木の実、果物まで何でも食べます。第二に性格です。臆病で用心深い。危険を感じるものには近づきません。」
「いいね。続けたまえ。」
「・・・第三に習性です。夜行性で、子育ての時期以外は、夜の行動が中心となります・・・そして、ミニホームズさんが『本当に狸が化けたものか』という疑問に関して、気になる点が浮かび上がってきました。ぼくが見たタヌキのシッポも、マミちゃんから生えていたシッポも大きくて、縞模様があります。しかし、タヌキのシッポはそれほど大きくなく、先端が黒っぽくなっているだけです。」
「実に興味深い話だ。さすがはバーカー街の少年探偵団のリーダーだ。で、君はそれをどう解釈するかね?」
ぼくは探偵団の団長になったつもりは無いが、続ける。
「はい。マミちゃんのシッポは、アライグマのそれと似ています。彼女はアライグマが化けたものかもしれません。」
「ほう、アライグマも化けるのかね。タヌキとアライグマの違いはシッポ以外にもあるのかい?」
「はい、目の周りの模様や、指が器用に使えるか、などの違いはあります。一番の違いは、タヌキが臆病なのに比べて、アライグマが獰猛なことです。」
「なるほど、気性があらいぐま、か。で、少年、これからどうする気かね?」
ぼくはAI名探偵のオヤジギャグは聞かなかったことにして、さらにつづける。
「実験を行います。マミちゃんの正体は、本当にタヌキか。」
こうしてぼくは、二つの実験と観察を行うことになった。
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