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 地下鉄で陽一と別れると、智浩はひとり車内の冷房に当たりながら自分のボディバッグを見た。  入り切らなかったペンギンのぬいぐるみが、ジッパーの隙間から顔を出している。ショップバックの方は陽一に渡してしまったので、ここに入れざるを得ない。 (そういえばミナミさんもペンギン見るって言ってたな……)  智浩は控えめに、真冬のメルボルンにいるはずのミナミさんに向かって頭を下げた。ガタン、と車内が揺れた。  と同時に、携帯がなる。陽一からメッセージが届いていた。  何かのURLらしい。  訝しみながらクリックすると、水族館の公式動画が出てきた。  動画の中でペンギンは、カメラに向かって首を左右に傾げている。さっき水族館で二人が手を繋いでいた時に、眼の前のペンギンがやっていたように。  字幕が流れる。 『ペンギンが飼育員のカメラに首を傾げてます! かわいいですね〜(*^^*)  でもこれ、実は威嚇行為なんです! オラオラモード全開!』  地下鉄の中で、思わず吹き出す。  やはりあれは68番か25番だったに違いない。  智浩たちの睦まじさに、妬いていたのだ。  チャットに爆笑のスタンプを返しながら、こみ上げる笑いと温かな気持ちが外に漏れ出ないよう、智浩は奥歯をしっかり噛んで圧し殺した。大丈夫だろうか。にやけた顔を、誰かに見られていやしないだろうか。  あたりを見回す。周りの乗客はみな俯いて、スマホと向き合ったり眠りこけていたりしていた。  地下鉄の窓は真っ暗で、深い深い地底をゆるゆると車両は駆けぬけていく。  智浩もまた眠るように俯いた。鞄の中のペンギンが、なにかもの言いたげにこちらを見上げていた。 〈了〉
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