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5.
ホテルのアメニティは充実していて、ヘアアイロンまで備え付けられていた。陽一はメーカーの確認などをしつつアイロンのスイッチをいれると、己の髪をきれいに整え、続けて智浩のヘアセットを始めた。「職業病」とのことだった。
「智浩さん、パーマきれいに残ってる。」
「担当の美容師さんみたいだね。」
「担当してもいいっすよ。でも、有料ね。ちゃんと予約取ってくださいよ」
「けち、」
笑いながら器用に智浩の毛束を整えていく。セットが終わる頃、ふと陽一が、カバンの横にある水族館のショップバックに目をやった。
「智浩さん、そういえばさっきお土産屋さんで何買ってたんすか?」
「ああ、見る?」
智浩がその袋に手を入れた。小さな手乗りのぬいぐるみが二つ。ペンギンだ。
「記念にね、」
「なんの記念っすか」
「ペンギンにあてられた記念だよ、」
「もー、」
「はい。一個あげる」
二人でそのぬいぐるみを分かち合う。陽一は、照れたような笑いを浮かべた。
「恋人同士みたいっすね」
「恋人同士でしょ?」
「そうっすけど。なんか、ふつーの……」
言いかけて、陽一は再び、今度はやや自嘲的に笑った。
「ふつーの恋人っぽくなれるかな、と思って。傷を舐めあってるとかじゃなくて、穏やかで思いやりが合って、ちょっと退屈な感じの恋人」
「なりたい?」
陽一は一瞬、言葉に詰まった。
「どうすかね……。なれる、かな。わかんないす」
「別に普通じゃなくていいけどね。俺らは俺らの……歪んだ関係でもいいよ。でも、」
振り向いて陽一に口づける。
「どっちでも、俺は陽一くんのそばにいるよ。同じところに、落ちてあげるから。」
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