13.夏鳥の泣声は儚くて

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「さきにいってるね〜」  3人で手を繋いで緩やかな丘を下っていた所、真ん中の莉花(りか)ちゃんが急に駆け出したので私はよろけてしまった。 「……わっ!?」 「おっと、大丈夫?」  課長さんが咄嗟に私の腕を掴んでくれて体勢を持ち直す。  ドキッと。  暫く振りに感じた男性の手に恥ずかしさが飛び出した。 「荷物、持とうか?」 「あ、ありがとうございます。お弁当を作ってきて……」  課長さんに莉花が大喜びすると御礼をいただき、この道を下りた所に動物がいると教えてくれた。  ゆったりとしたカーブの先に莉花ちゃんが走って見えなくなる……と、また戻ってきて私達に手招きをした。 「すごいよ! ゆきがふってるみたいだよ!」  えっ――――!?  真夏に、雪…… 「あっ」  莉花ちゃんが叫んだとおりに、この道を進んだ先から真っ白な小さい粒が飛んできて……私は思わず声をもらした。  ひらひら…… ひらり……  雪のようなそれは自由に宙を舞って。    こっち、こっち!  私を、呼んでる……?  坂道に歩みを委ねて、このまま足も心も引かれるように。一歩一歩そこへ近づくほど、目の前の景色は大切な記憶の一片と重なってゆく。  小さな白花の雪みたいな花吹雪。  私と彼の 、、、本当に?  夢じゃ……なくて?  高鳴る胸はこの時を待っていたと言わんばかりに激しく喚いているようだ。  もう一歩、あと一歩。  ひとつ、まばたきをして。そして……  燦々と輝くその光景が、一瞬にして私の目に焼きつく!  息を呑む間に、それは心の奥まで突き抜けて閉ざした扉をこじ開けた。  夏の太陽のもと真っ白に積もった雪の花……  大切な宝物と同じ、一番愛しい花が! 「っ――――――    」  会いたい、  気持ちが噴き出して――――――  とめどなく流れる涙が私をその場に佇ませた。 「ふっ――――うぅっ――――っ」  ナツユキカズラが満開に咲き誇り、風にのった小花は初雪のように優しく舞っていた。  花が咲いている場所は、ふれあい広場の動物たちを囲う柵なのだろう。私が愛でていた駐車場のフェンスよりも広大で、自然の中で育った生命力を感じさせる優雅さに、心を打たれ我慢ならなかった。 「……冬咲さん?」 「ぅ――――」 「えっ!? だ、だいじょ……」 「んっ――――、すっ……すみませ、」  何年過ぎようと、大切なものは変わらず……  私の中で生き続けている――――――  
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