13.夏鳥の泣声は儚くて

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 何もできないまま時間だけが過ぎてゆく。どんな理由をこじつけるか車中で堂々巡り。電話をかける勇気もなかなか出ずに、スマホの夏雪時計は10:45を表示していた。  スマホとマンションの入口と交互に凝視し続けて、焦る気持ちが呼吸を荒らし俺を惑わせる。  ここにも住んでなくて、電話も繋がらなかったら…………はっ!!  マンションから出てきた人影に肩を跳ね上げたが、小さな娘と手を繋いだ父親だった。  乱れた心音を落ち着かせて――――――  ふいに視界が燦めく。  長い髪とワンピースの(すそ)をなびかせて、真夏の太陽のもとに現れたその姿は……!?  雪乃さんだ。  髪は伸びてロングヘアになっていたが間違いなく雪乃さんだ。  襟もとの開いた夏色の服がよく似合っていて、変わらず透明感のある白い肌は――――  狂いそうなほど、綺麗だ……  俺は再び、一目惚れに落ちたみたいに――――。    俺に気づかず先へ急いだ彼女に思わず、クラクションを鳴らそうとして …………!!  はっと息を止めた。  雪乃さんはさっきの父娘に並んで足を揃えたからだ。  少女が彼女を見上げ、嬉しそうに手を取ると……彼女は戸惑いながら、笑顔を向けた。  少女を間に3人で手を繋ぐ後ろ姿は――――  まさに理想の家族そのものだ。  父親である男は紺色の国産高級車の後部ドアを開け、娘が乗り込んだ後に……丁寧に会釈をする彼女を紳士的に乗車させ…………車を発進させた。  まるで・・・  幸せな家族ドラマのワンシーンを、俺はフロントガラスのスクリーンで見ているようだった。  あぁ――――――  雪乃さんには、幸せが訪れていたんだ。  結婚も、母親にも、なれる……  両方を与えられる相応(ふさわ)しい男が、もう。  彼女を幸せにできるのは、俺じゃない。  俺じゃ、ないんだっ……――――――
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