13.夏鳥の泣声は儚くて

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 無心で、何も考えないように。  ただ運転することだけに集中してた。  無表情に何処(どこ)も変に動かさないようにして。  あの日と同じ、逃げ出すみたいに東京を離れた。  フロントガラスには、いつの日かの薄ボケた思い出が……  景色に二重露光して映っていた。 ・・――   手を繋いで海岸を歩いてるみたいね?                 ――・・  海沿いの国道を走るその場所で……  (おもむ)ろに、俺は車窓から右手を外へかざし、ぱっと手のひらを広げ――――――  サイドミラーにひと光……  それは、真夏の光よりも白銀の雪よりも燦いて、消えた……  ずっと手元にあった、彼女に贈るはずだった指輪を、俺は手放した。  彼女には勿論、俺にも必要ない。  この恋は、完全に終わったのだから――――――  そして海風に吹かれ、何もかも、記憶の欠片(かけら)さえも飛ばし捨てて……家に帰ったんだ。  そこに、初雪の景色はまだきらきらと輝いていて――――  誇らしく、燦々と、美しかった。  夏雪の花が咲いたのは、雪乃さんの幸せを、知らせてくれたんだ、な?  俺にじゃ、ない…… 「はっ、ははっ……くっ。雪乃さんと別れてからのほうが、俺は……俺はっ! ちゃんと愛せていたんだ……」  俺はもうそばにいられないから、せめて……  泣いたりしないで。  穏やかに過ごしてほしい――――  心で祈りを捧げるようにして。  だから…… 「どうか、うっ……うぅっ。どうかっ、幸せになってくれ……  愛してる――――――」  雪乃さんが俺にそうしてくれたように、俺も笑って幸せを願う。  彼女の面影(おもかげ)を映した夏雪の花に、(せき)を切ったように泣きながら、渾身の笑顔を向けて祈った。  少しも傷つかないで、君もずっと笑っていて―――――― *
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