13.夏鳥の泣声は儚くて

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「「 きゃぁ~!!♡♡ 」」  莉花(りか)ちゃんと(あかり)さんの甲高い声が響き渡った。茶化されていると悟った課長さんは王冠を取って二人を注意する。 「もう終わり! お客さんを巻きこんで。莉花も御礼言って」 「はーい。雪姫(ゆきひめ)ちゃん、ありがとう」 「孝之(たかゆき)も一番いい演技だったね?」 「うん。あとちょっとキスがしてるふうにみえたらパパもカンペキだった」  随分おませさんな発言が微笑ましく、明さんが継母のようだとも思った。  莉花も明もいい加減にしてケーキ食べる用意して、とたしなめる課長さんの間合いといい、私は本物の家族ではないかと感じたほどだ。  でもこの家のリビングには奥さんの遺影が飾ってあって、莉花ちゃんのための家族ごっこを演じているのだと明さんは私に主張してくる。 「莉花に孝之、悪いんだけど私、来週急用できちゃって。ふれあい公園一緒に行けなくなっちゃった。ちょっと、そう、無理なのよ。でさ、冬咲さんの都合が良ければ、3人でどうかなぁ?」 「「「 ・・・・・・ 」」」  意図はわかり易いけれど、本当に明さんは演技が上手くないようだ。  明さんにふられた私達は暫し顔を見合わせたあと、莉花ちゃんが私をじっと見つめるので快く返事をした。  それで8月始めの週末、課長さんと莉花ちゃんが車で迎えに来てくれることになり――――  ピンポーン。  家のインターホンが鳴り玄関ドアを開ける。 「雪姫ちゃん!おむかえきたよ!」 「莉花ちゃん、こんにちは。課長さんもすみません」 「こちらこそ。莉花がピンポンしたいって言い張って」 「気になさらず……あ、あと少し準備が。すぐ行きますので」  お弁当に氷を入れ忘れていたので先に車に向かってもらう。莉花ちゃんが手を振って外へ出るのを見送ると閉まるドアの隙間から声が聞こえた。 「雪姫ちゃん、今日のワンピもかわいかったね!」 「そ、そうだね」  ファッションチェックに来たんだ……  大人びた女の子に少し照れながら、急いで準備をして家を出た。  午前10時50分、真夏の陽射しはクラクラしそうに眩しい――――  課長さんと莉花ちゃんが手を繋いで歩く後ろ姿を見つけて私も早足で追いかけた。  お待たせしました、と声をかけると莉花ちゃんが私の手を握ってきて……  小さな手の温もりに、一瞬、胸が熱くなる。  私の未来に抱いた、それと同じ夢の実感に心が揺れた。  にっこりする莉花ちゃんに私は応えて、お手々繋いでの初めてに沁みじみしながら車まで歩く。  課長さんが親切に私を乗車させると公園へ出発。後部座席で私と莉花ちゃんが女子トークさながらのお喋りをしている間に、郊外の緑に囲まれた自然公園に到着した。  
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