13.夏鳥の泣声は儚くて

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「……確か、そうだね、35歳の時だった。ラボで(あかり)したのは。びっくりしたよ、自分の気持ちに。明が生きて、僕の目の前にいる現実に……嬉しくて泣きそうだった」 「……気持ちが溢れた、ですね」 「突然消えてしまって、わけもわからず怒りさえ……でも癌治療の為と後で知って、僕の方が大事にされてたと気づいた。情けないよ……支える勇気もなく、忘れる事もできず」  課長さんは長く息を吐いて飛ばした。  私は口を噤んで他人事と思えない話に喉を詰まらせる。  痺れを切らした親がお見合いをね、それで前向きに結婚をして子供を授かって……  そんな時に明さんに再会したのだと課長さんは続けた。 「妻と莉花(りか)が大切な事にかわりはないけれど、明の事も心配で断ち切れなかった。あろうことか妻と同級生で家族ぐるみの付き合いになってね。  ……莉花が年中さんになるとすぐ妻は病に倒れて逝ってしまった。天罰なんだよ、優柔不断な僕への。  明も妻も僕に幸せになれと……僕だけが莉花という宝物を手にして、誰も幸せにしてやれないっ」  明さんとは破局し、奥さんは命を失い、莉花ちゃんには母親がいなくなった。  幸せのカタチとはなんなのか……  私にもわからない。  私も今は……幸せ、と誇れる自分ではないから。  せめて、大切な人には幸せでいてほしい。  そう願っている。愛するほどに……自分の幸せよりも相手の幸せを望んでしまう。  それは、間違い、なの?  自分も幸せでなければ幸せのカタチはいつまで経っても、欠けたまま、なのかもしれない。 「……莉花ちゃんの夢はご存知ですか?」 「えっ? 莉花の……舞台監督、かな?」 「お姫様と王子様をくっつける事、だそうです。さっき車の中で聞きました」 「ん? どういう事なんだろう?」 「どうやら、ウエディングプランナーになりたいみたいです」 「ああ、なるほど」  私がここに着くまで莉花ちゃんと話をした女子トークの内容を課長さんに暴露する。 「……ママと約束したそうです。私はハッピーになって皆もハッピーにする、そうしたら天国でママもハッピーだからって。  幸せの意味はまだわからないようでしたが、ハッピーはおめでとうで嬉しくてニコニコになる事だと解釈していました。それで結婚式を作りたいと考えて、監督ごっこで練習しているそうです」 「ははっ。そうゆうことか!」  それで、その続きは……ナイショの話。  でも私は悪役になってすべてをバラしてしまおうと口を滑らす。 「り、莉花ちゃんの誕生日に、お願いをひとつ聞く約束をしていると思いますがっ」 「うん。何か言ってた?」 「莉花ちゃんのお願い事は…………パパと明さんの結婚式! で、すっ」 「はあっ!?」  言っちゃった!   私も驚いた莉花ちゃんの要望には予め心づもりが必要ではないかと思ったのだ。  当人の二人には特に…… 「莉花ちゃん、明さんと一緒に暮らしたいから、パパと結婚してもらわないとって……」 「そ、そう、えー……」  当然、課長さんは困惑して天を見上げてしまった。  子供だからって侮れないと私も肝を冷やしたくらい、父親の心境ときたら想像を絶するものだ。娘の魂胆を知ったら…… 「二人をハッピーにして莉花ちゃんは……教育実習の大学生と結婚したいそうです」 「ええっ!?」  
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