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『 本物の初雪も―――――― 』
あれから、3年の月日が流れて。
今夜、同じ場所で。
「……願いが叶ったわ」
私は夜空を見上げて、ひらひらと降りてくる小さな雪の結晶を、手のひらにもらい受ける。
天からの贈り物、思い出の初雪と同じ。
ね? 綺麗でしょう?
心の中で私は語りかける。
冷たい雪も凍える空気も、私には愛しくて。
素手や肌で直接感じたかったから、傘も手袋もしないで外を歩いていた。
――――もしかしたら今日、都心にも初雪が降るかもしれない。
予報に期待しながら今年の仕事納めをして定時に会社を出ると……
チラチラ、白い粒を目にして立ち止まり暗い空を見上げた。
あぁ、 雪だ。 あぁ
ただ、舞い落ちる雪を。
手のひらに届くまで。
ぴとっ、
待ち受けた白い雪が私の手の中に浸透する。
そっと優しく包んで、大事に大事に。
そのひと握りに今日までのいろいろな気持ちが込み上げた――――――
思わず、涙が瞳を覆いそうになって
…………!!
「ママぁ! ゆーき、ゆーき♪」
「ほんとだね〜! あ、ごめんなさい」
「いいえっ」
通りに立ち止まっていた私に小さな子がぶつかりそうになって母親が慌てた様子で謝った。
ぴょんぴょん跳ねながら器用に歩く。全身で雪に喜んでいるみたいな無邪気さ。
その可愛い雪の舞に私の涙は何処かへ消えてしまった。
「はやくパパにもゆきあげたいね!」
「そうだね。パパも喜ぶよ」
二人の会話を耳にして後ろ姿を見送る。幸せを描いたような母娘と雪景色のワンシーン……
胸がほんのり温かく、ひとりでに笑顔を向けていた。
私も……そうしてみようかな――――
コートのポケットからスマホを取り出し時刻を確認した。[17:45]……ぴとっ。
夏雪の花の画面にも雪が舞い降りる。
そして私は電車に乗って横浜へ。赤レンガ倉庫の最寄り駅で降りて徒歩でここまでやって来た。
小さい子みたいに初雪を肌身で感じながら、いつ消えてしまうかもわからない小雪の景色に思い出を映して。
去年も一昨年も初雪が降ったのは真夜中だったから。今年こそは、あの時のようにと……
夏の公園でナツユキカズラを見てから焦がれていた。
忘れたくない、すべてを。
私に奇跡が起きたことも、失ったものも。
だからここで、初雪を私は眺める。
そうやって過ごした時間のぶん、顔と手が冷えきってしまったが……あともう少しだけ。
まだ離れたくない。
白い息を吐きながら、思い出の場所でうろうろとしていた――――――!!
えっ、
――――・・・夏樹、さん?
急に現れた気配、誰か、一瞬で。
まばたきひとつする前に誰なのかわかった。
髪は短く変わっていたが、口元から吹き出す白い呼吸の影に、最後に見た表情とまるっきり同じ苦しげな顔がある。
「癌は!? 治療はどうなってる!?」
えっ!?
真っ直ぐ私にぶつけてくる強い視線と言葉。その懐かしい声にも、ドキッと震えた。
「ぜ、全部取れた! 低悪性度の肉腫だったから、全摘出して治癒できたの」
予想外の第一声に焦り早口で答えた。すると、口元を押さえて彼は高い背を縮こめる。
「っ……良かった、良かっ、っ 。
予後が悪いのもあるって知って……死ぬんじゃないかっ……」
「ごめん! 伝えてなかった、ね……」
「ホントに……ホント、雪乃さん、うっかりさんなんだかっらっ……」
「ごめん。……な、泣かないで?」
私、夏樹さんに泣かれると、胸が痛くて……目頭が熱くなる。
手の届かない二人の間で、もう一度、しっかり視線を繋いで……
心と心を通い合わせる。
「結婚! ……は?」
「……してないよ、」
「恋人は!?」
「……いるわけないっ――――――!?」
勢いよく距離を詰めて、夏樹さんは私を抱きしめた――――――
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