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数週間後
「ようやく謹慎期間が終わったわねー。 これからはちゃんと勉学に励みなさいよー?」
今日は久しぶりに学校へ登校する。 まだ身体は痛いところもあるが大分動けるようになった。 ただ話に聞くところ千尋は怪我がもっと酷い上、精神にも傷を負ってしまったらしい。
「本当に一週間の謹慎だけでよかったんだね」
「本当よねー。 まぁ先生も小百合は悪くないって言っていたし」
先生は上手いこと母に事情を話してくれたようだ。 母の話を聞くに千尋と階段から転がり落ちたというところまで伝わっていた。
―――でも正直あの二人も学校にいたら顔を合わせにくいな・・・。
そう思いながらドアノブに手をかけた。
「行ってきまーす・・・。 って、え!?」
扉を開けると小百合は驚いた。 そこには吹奈が笑顔で立っていたのだ。
「おはよッ、小百合!」
「す、吹奈!? どうしたの、その恰好・・・」
吹奈が元気に立っていることにも驚いたが、それ以上に驚いたのは吹奈の服装だった。 吹奈はもうギャルではなく清楚に制服を着こなしていた。
「何、小百合はまだそんな恰好してんの? もう派手過ぎー!」
困惑していると背後から母が顔を出す。
「あら、吹奈ちゃんじゃない!」
「お母さん、お久しぶりです!」
「もう元気になったのね。 やっぱり派手過ぎないその恰好の方が似合うわー」
「やっぱりそうですよねー!」
意気投合しながら吹奈に家の中へと戻される。
「え、え? 今から学校へ行くんじゃ」
「ちょっとお邪魔してもいいですか? 小百合もそんな濃いメイクを落とさないと!」
「いいわよー! 上がっていって!」
吹奈に背中を押されるように小百合の部屋へ移動した。 いや、ほとんど連れていかれたといってもいい。
「あの、吹奈・・・」
「はい、何も言わない! メイクをまず落とそうねー」
言われるがままとなる。 抵抗することもできたが、不思議とそのような気分には全くならなかった。 何を話そうか迷っていると吹奈から話を振ってきた。
「そう言えば茉耶と千尋、退学になったってね」
「・・・え、そうなの!?」
先に学校へ復帰していた吹奈が頷く。
「うん。 先生に聞いたら退学だって」
「そっか・・・。 そうだよね、あんなに酷いことをしたんだもん」
「でも決め手になったのは小百合が撮り溜めていた動画だよ? まぁ正直に言うと小百合は助けてはくれないんだろうと思っていたんだけど、あんなに証拠を残していたなんてね」
「あはは。 とはいえ、今回みたいな件がなければ眠ったままになっていたかもしれないけど」
「それでもいいよ。 考えてもみて? 今から学校へ行って、あの二人がいるのといないのを」
「いないと思ったら心が軽くなったかも」
「だよね? アタシも清々しちゃった。 だから気持ちも切り替えてギャルも終わり!」
吹奈は小百合からの言葉を何も求めていないようで吹奈の気遣いを感じ小百合も何も言わないことにした。 話すことがなく視線を彷徨わせているとあることに気付く。
「・・・あれ? 目が腫れているけどどうしたの?」
「え? あぁ。 ・・・実は大志先輩と別れることにしたんだ」
「・・・え、どうして!? もしかして先輩に振られ・・・ッ」
「アタシが自殺未遂をした時。 といっても本気ではなかったんだけど」
「え!? ちょ、ちょっと待って。 色々と突然過ぎて追い付けない。 あの自殺未遂は本気じゃなかったの?」
尋ねると首の傷を見せてくれた。 もう傷は塞がっているが生々しい傷跡は残っている。
「本気じゃないって言えば嘘になるかな。 だけど死ぬつもりはなかったよ」
「そうだったんだ・・・」
「手首で練習してどれくらいまでなら大丈夫っていうのが分かっていたから」
「・・・それ、練習だったの」
引きつり気味に目を向けていると吹奈は楽しそうに笑っていた。
「これくらいしないと状況は変わらないと思ったの。 結果的には満足したけど、まぁちょっとやり過ぎだったかなとも思ってる」
「アタシ、心配したよ?」
「それは本当にごめん。 そのせいで階段から飛び降りるまでしてくれたんだよね? 嬉しかった」
「改めて考えるとあれで死ぬことはなかった気がするけど、あの時は割と本気で死んでもいいと思っていたんだ。 ・・・まぁそれはいいとして先輩と別れたっていうのは?」
「うん。 まぁ本気ではなかったけど、それでも一歩間違えれば死んじゃう可能性もあったでしょ? だから遺書は本気で書いた。 だけどその時に先輩の顔は全く思い浮かばなかったんだ。 それが理由」
「そんなことで・・・」
―――じゃあ吹奈から先輩を振ったんだ。
「それが大きいの。 傍にいてくれたはずなのにアタシがいじめられていることに全く気付いていなかったし。 多分本気でアタシのことは見ていなかったんだと思う」
「・・・そっか」
「まぁでも、そう思ったんだけどいざ別れるとなると涙が出てきちゃってね」
そう言って無理に笑顔を見せる吹奈。
―――・・・アタシも言わなきゃ。
―――吹奈にはもう嘘をつけない。
「ねぇ、吹奈。 話さなきゃいけないことがあるの」
「何?」
「・・・実はアタシも大志先輩のことが好きだったの。 ・・・だけど吹奈が自殺未遂した時に色々あって完全に冷めちゃった。 これをずっと秘密にしているのも心苦しいな、と思って・・・」
正直に話すと吹奈は驚いて申し訳なさそうな表情をした。
「・・・そうだったの? ごめん、気付いてあげられなくて」
「吹奈のせいじゃないよ。 先輩が選んだのはアタシじゃなかった。 それだけなんだから」
「アタシは先輩を振った。 だから先輩と小百合が付き合うことになってもアタシは全然構わないよ?」
そう言って吹奈は寂しそうに笑っていた。 ただ大志に対して今はもう何の思いもないというのは嘘ではない。
「いや、本当にもうそんな気はないから」
「そっか」
実際驚く程に先輩への恋心は消え去っていた。
「そうだ。 一つだけ聞いてもいい?」
「何?」
「授業中に送られてきたDMって本当に小百合からじゃないんだよね?」
「それは本当にアタシじゃない!!」
強く否定すると安堵する吹奈。
「よかった。 それを聞けただけでもう十分。 親友を失わずに済んでアタシは幸せ」
「・・・本当に吹奈はこれで幸せなの?」
「これで、なんて言わないで。 幸せの定義なんて誰にも決められないんだから」
-END-
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