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千尋が逃げる姿を見つめながら追いかけることのできない自分に絶望した。 現場の状況を見るに千尋は関わっていないのかもしれない。
ただ今までのことやリストカットにまで手を染めていた吹奈のことを考えれば問い詰めるのは今しかないのだ。
―――・・・アタシは一体どうしたいの?
―――吹奈が死んだかもしれないんだよ?
―――吹奈を追い詰めたアイツが逃げようとしているんだよ?
―――追いかけなきゃいけないのに。
―――それなのにまだアタシはあの人たちを怖がっているの・・・?
小百合がもっと早く行動を起こしていればこんな事件は起きていなかったのかもしれない。 そうでないのかもしれない。 だが自分がやってきたことが間違っていたということはハッキリと分かっていた。
今更だが吹奈を救えなかったことを悔やんだ。
―――・・・アタシがずっとあの二人に流されて自分の心に素直に従わなかったのがいけないんだ。
―――周りを気にして言う通りにして普通にしていたらアタシの印象はよくなる。
―――でもその分アタシらしさというものがなくなって心は空っぽ、悪いことをした罪悪感だけが残る。
―――周りの目と自分、どっちが大事?
―――アタシが思う普通って何?
―――周りに合わせる、普通でいるってそんなに大事なこと?
―――・・・あの二人と出会ってから言いたいことを言えたことがない。
―――この寸進尺退のままでは駄目だ。
―――周りからの視線なんてもういらない。
―――アタシが変わらないと!!
その時救急車の音が聞こえた。 その音で背中を押され決意する。 小百合はこの場から走り出していた。
もうほとんど見えなくなってしまったが、人混みを掻き分けながら去っていった先へと向かい階段を見下ろす。 すると動揺からか覚束ない足取りで階段を降りている千尋を発見した。
「待って!!」
「・・・!」
千尋は小百合の声に身体を震わせ立ち止まった。 小百合は急いでスマートフォンを取り出し動画を流して見せた。 それは今日小百合が先生にチクったせいで吹奈が追い詰められているシーンだ。
「それ・・・」
「これを警察に提出してほしくないなら自首をして!」
「ッ・・・」
千尋は完全にその場に固まっている。 小百合は階段を降り始めた。
「そ、そんなことをしていいと思ってんの?」
「逆に今まで証拠を撮っていないとでも思ったの?」
「じゃあどうして今まで誰にも提出しなかったのよ? どうせ怖くてできなかったんでしょ!!」
「・・・そうだよ」
「ほら! 小百合はウチらには絶対に勝てない。 そんな弱い心で勝てるわけがない! 今すぐに大人に見せてきたら? できないなら大人しく引っ込んでいなよ!!」
小百合は静かにスマートフォンをポケットにしまった。 千尋の前で立ち止まる。
「千尋だって逃げたじゃん。 それは後ろめたいことがあるって自分でも分かっているからでしょ?」
「べ、別にそんなんじゃないしッ! ただ騒いでいてヤバそうだったから離れただけで」
「ダサ」
「はぁ!? 小百合のくせに何ウチに舐めた口聞いてんだよ!!」
千尋は虚勢を張っているだけなのか、声ばかり大きいがその場から微動だにしようとしなかった。
「・・・自首はしてくれないんだね」
「するわけがないでしょ」
「じゃあ一緒に死のう」
「・・・は?」
「吹奈があんなことになって分かったの。 今やれることをやらずして明日は来ない、って。 アタシはただ日常が変わることを恐れて嫌なことから目を背けているだけだった。
でもその結果、最悪のことが起こってしまった。 分かる? 人の足を引っ張り、自分の人生に責任も持たず、ただ欲望のままに日々を生きることの罪が。 アタシたちは生きていちゃいけないんだよ。
吹奈のためにもアタシたちは死ななくてはならない」
「何を言って・・・ッ」
「償いをしないと駄目だよ。 今までアタシたちは吹奈に辛い思いを与え続けてきたんだから」
「ならアンタだけが死ねばいいじゃない!!」
「大丈夫。 千尋だけを痛い目には遭わせない。 アタシも一緒に綺麗に死んであげるから」
「離しッ・・・」
小百合は千尋に抱き着きそのまま階段から転がり落ちた。 酷く身体を打つがまだ互いに意識はあるため起き上がる。
「痛い痛い痛い! あぁ、血が出てる・・・ッ。 何が綺麗によ!! あぁもう、アンタいい加減にしなよ!!」
「・・・大丈夫、まだ綺麗だから。 でも流石にこの程度じゃ死ねなかったね」
「ぐッ」
千尋が逃げる前にもう一度ホールドして再び階段を転がり落ちる。 今度は角にでもぶつかったのか千尋の足が異様な方向へ曲がっていた。
「助けて・・・。 許して、許して・・・ッ! 本当に死んじゃう・・・。 ママ・・・ッ!!」
涙を流し懇願されるも小百合は笑って組み付いたまま階段を転げ落ちる。
「いぃぃぃあぁあぁぁぁ!!」
「・・・もうアタシたちはこれで終わりだよ。 ごめんね、吹奈。 助けられなくて・・・」
そうして小百合と千尋はもつれたまま何度も階段を落ち意識を手放した。
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