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一.社長室の女
日常へと戻った咲耶たちは、紆余曲折を経て、それぞれの人生を歩んでいた。
甲賀シティの中心にそびえ立つ、百階建ての超高層ビルの最上階。
ガラス張りの広い社長室の窓際に、牡丹色のスーツに身を包んだ女が立っていた。
女は、金縁の細い眼鏡のブリッジを指先で押さえながら、眼下の街を、そしてその向こうに広がる世界を、見下ろしていた。
と、背後から、同じくの牡丹色のスーツに身を包んだ男が一人、書類の束を抱えて歩み寄ってきた。
その足音に、
「遅いわよ、コンガ」
振り返った女は、大人になった咲耶であった。
「申し訳御座いません、咲耶社長。
最後の調整に少し手間取りました」
コンガが軽く頭を下げ、一束の書類を咲耶に手渡す。
『全クラン統一計画(最終版)』
と銘打たれた書類を受け取った咲耶は、眉間にしわを寄せながら書類にさっと目を通した後、
「上出来よ、コンガ。
いよいよね。
明日、我が社は他の全クランの買収に踏み切るわ」
口元に満足げな笑みを浮かべた。
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