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由比正雪
手裏剣は次々と運転手に突き刺さっていく。目の前でイケメン運転手が殺された。
「うッわァーーーーッ」
思わずボクは顔を歪め背けたが、なぜか手裏剣は運転手の顔や身体をすり抜けていった。
「えェ……?」
まるでイリュージョンか魔法でも見ているようだ。どんなマジックなのだろうか。
「フフゥン、危ないな。お嬢ちゃん。手裏剣を投げるなら、ちゃんと狙わないと」
イケメン運転手は、余裕の笑みを浮かべた。微動だにしなかったのに、なぜか手裏剣はすり抜けていった。妖術使いなのだろうか。
「フフゥン、やはり風魔忍者なのね」
咲耶もこうなることは事前にわかっていたみたいだ。別に取り乱していない。余裕の笑みを浮かべたままだ。
「ああァ、だがさっきも言ったが、オレは風魔小次郎じゃないよ」
陽炎のように運転手の身体が揺らいだ。
「待ちなさい。どうせならしっかりと名乗って行きなさいよ!」
咲耶も追いかけるように怒鳴った。
「フフゥン、オレの名は風魔聖士郎!」
「な、なにィ聖士郎?」
「だが本当のオレの正体は、由比正雪の転生した姿だ」
「まさか……。あの徳川家光の死後、政情不安に乗じて、幕府転覆を図った由比正雪だと言うのか?」
思わずボクは聞き返した。
妖術を使って人心を惑わせた稀代の軍法教授にして、慶安事件の首謀者が由比正雪だ。
「フフゥン、いずれ4つのクリプト絵巻を手に入れて、このオレが世界を支配する!」
由比正雪を名乗る男は手に持った煙玉を高々と掲げボクたちの方へ叩きつけた。
「わァッ」
地下駐車場のコンクリートに叩きつけられた煙玉は『ボォーン』大きな爆音を発したと同時に煙幕が放たれた。
あっという間に地下駐車場は煙が充満した。
「ううゥ……」ボクたちは手で煙幕を避けた。
しかし煙りが滲みて目が痛い。
「チィッ、逃げられたか」
咲耶は刀を構えたまま、悔しそうに舌打ちをした。すでに謎の運転手の姿は忽然とボクたちの前から消えていた。
「ゴホゴホッあの、みんな無事ですか」
一応、ボクは姫香たちの担任の先生だ。ふたりを気づかって声をかけた。
「ええェ、まさか運転手の影山が由比正雪の転生した姿だったなんて……」
身近な姫香もまんまと騙されたようだ。
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