忍ばない! 甲賀のくノ一咲耶

1/1
前へ
/12ページ
次へ

忍ばない! 甲賀のくノ一咲耶

 夜更けになってもまだ蒸し暑い。  都心のタワーマンションの地下駐車場に黒塗りの高級外国車が停車していた。車内はエアコンが効いているため快適だ。  若いイケメンの運転手が後部座席でノートパソコンを操っている令嬢に声をかけた。 「あのォ、お嬢様……」  黒縁メガネをかけたイケメン運転手の影山だ。令嬢は聞こえてないのか、パソコンに掛かりっきりだ。 「そろそろ帰らないと旦那様に叱られますよ」 「ふぅん、邪魔しないで。パパのせいで私はこんな事をしなきゃならないのよ」  令嬢は苛ついたようにエンターキーをパチンと叩いた。  彼女は龍宮寺財閥の令嬢、姫香だ。可愛らしい顔をしているが、気の強そうな美少女だ。 「ううゥ……」  思わずイケメン運転手の影山は眉をひそめた。 『フッフフ……』  その時、不意に笑い声が響いて、車外で木の葉が舞った。 「えェ……?」姫香は驚いてウインドウ越しに車外を見つめた。  見る間につむじ風が起きて、木の葉が徐々にヒトガタへと姿を変えていった。 「だッ、誰なの?」  思わず姫香は目を丸くしてつぶやいた。  やがて木の葉が消え去り、美少女の姿が現われた。 「ぬううゥッ、咲耶!」  姫香は憎々しげに車外に姿を現わした女忍者(くノ一)を睨んだ。姫香にとって咲耶はライバル的な存在だ。 「忍ばない! 甲賀のくノ一 咲耶、華麗に見参」  手には自撮り棒を持ったまま、ダンスを舞ってポーズをつけた。 「くゥ……」姫香は眉をひそめた。  おもむろにボクは咲耶の背後から車に近づいた。 「フフッ、さァ姫香、おとなしくその車の中から出ていらっしゃい」  咲耶は笑みを浮かべ挑発的に指で招いた。 「ふぅん……」  しかし姫香は無視するようにそっぽを向いた。  だが咲耶も黙っていない。 「この世のすべての謎は、このくノ一探偵 咲耶様に()かれたがっているのよ」 「なッ、なにィ?」姫香は咲耶を睨みつけた。 「真犯人は!」  まるでアニメのヒロインのようにポーズをつけて姫香を指差した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加