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忍ばない! 甲賀のくノ一咲耶
夜更けになってもまだ蒸し暑い。
都心のタワーマンションの地下駐車場に黒塗りの高級外国車が停車していた。車内はエアコンが効いているため快適だ。
若いイケメンの運転手が後部座席でノートパソコンを操っている令嬢に声をかけた。
「あのォ、お嬢様……」
黒縁メガネをかけたイケメン運転手の影山だ。令嬢は聞こえてないのか、パソコンに掛かりっきりだ。
「そろそろ帰らないと旦那様に叱られますよ」
「ふぅん、邪魔しないで。パパのせいで私はこんな事をしなきゃならないのよ」
令嬢は苛ついたようにエンターキーをパチンと叩いた。
彼女は龍宮寺財閥の令嬢、姫香だ。可愛らしい顔をしているが、気の強そうな美少女だ。
「ううゥ……」
思わずイケメン運転手の影山は眉をひそめた。
『フッフフ……』
その時、不意に笑い声が響いて、車外で木の葉が舞った。
「えェ……?」姫香は驚いてウインドウ越しに車外を見つめた。
見る間につむじ風が起きて、木の葉が徐々にヒトガタへと姿を変えていった。
「だッ、誰なの?」
思わず姫香は目を丸くしてつぶやいた。
やがて木の葉が消え去り、美少女の姿が現われた。
「ぬううゥッ、咲耶!」
姫香は憎々しげに車外に姿を現わした女忍者を睨んだ。姫香にとって咲耶はライバル的な存在だ。
「忍ばない! 甲賀のくノ一 咲耶、華麗に見参」
手には自撮り棒を持ったまま、ダンスを舞ってポーズをつけた。
「くゥ……」姫香は眉をひそめた。
おもむろにボクは咲耶の背後から車に近づいた。
「フフッ、さァ姫香、おとなしくその車の中から出ていらっしゃい」
咲耶は笑みを浮かべ挑発的に指で招いた。
「ふぅん……」
しかし姫香は無視するようにそっぽを向いた。
だが咲耶も黙っていない。
「この世のすべての謎は、このくノ一探偵 咲耶様に解かれたがっているのよ」
「なッ、なにィ?」姫香は咲耶を睨みつけた。
「真犯人は龍宮寺姫香に決定!」
まるでアニメのヒロインのようにポーズをつけて姫香を指差した。
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