姫香

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姫香

「それは、そうかもしれないけど……」  ボクも躊躇(ためら)いがちにうなずいた。 「姫香のご両親には長いこと子供ができなかったのよ」  咲耶は龍宮寺家の個人情報を(あば)いていった。 「え、じゃァ、どうやって?」 「そこで代理母という形で、愛人との娘を龍宮寺家の後継者にしたの。それが……」 「姫香(ヒメ)なのか?」 「……」姫香は黙ってそっぽを向いていた。 「しかしそれは、というほどのスキャンダルじゃないだろう」  代理母と言うのは子供の出来ない家庭では(まれ)にあることだ。もちろん資産家にしかできないので、不公平なことだが。 「そう、なら何ら問題ないわ。でもそれだけじゃなかったのよ」 「……」姫香は無言でうつむいた。 「え、それだけじゃないって?」  どういう事だろう。ボクは聞き返した。 「龍宮寺家は【パンドラの箱】を開いて姫香を誕生させたのよ」 「えェッ【パンドラの箱】って?」  なんだと言うんだ。 「それは……」 「もォッ、やめてェ!」  突然、姫香は悲鳴を上げた。 「ン」咲耶も苦笑した。 「いいわ。わかったわ。あなたの…、咲耶の言う通りよ」  堪らず姫香も白状した。 「え、咲耶の。じゃァ?」 「やはりあなたは風魔小次郎に脅されて、各地の小学校の校庭に机で【666】と並べさせたのね」  咲耶の言葉に姫香は、いったん声を詰まらせた。 「ううゥッ、そうよ」かすかにうなずいた。 「じゃァ、クラスメイト全員で机を。そうなのか?」  だからひと晩で校庭に数多くの机が並べられたのか。 「ええェ、風魔小次郎の指示で他国のサーバーを経由させて、クラスメイトに脅迫文を送ったのよ」 「クラスメイトに?」 「そう、そして深夜にクラスメイト(みんな)を校庭へ集めさせたの」 「さらに教室から机を運ばせて【666】と校庭に並べさせたのね」  咲耶は姫香のことを優しく見つめた。 「ええェ……」姫香は、ためらいがちにうなずいた。 「防犯装置は事前に風魔小次郎が細工しておいたのね」 「ええ、そうよ。だからみんな安心して校庭へ並べたのよ」 「なるほど、風魔忍者が細工したから防犯ブザーも防犯カメラもいっさい作動しなかったのか」  用意周到なヤツだ。 「だけれども、それはウチの小学校だけならわかるが。他の小学校はどうやって……」 「同じことよ。すべて風魔小次郎がお膳立てして私は脅しただけ。あとは各地の小学校で【666】事件が起きたのよ」
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