ずっとあなただけ

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ずっとあなただけ

 僕の母は独裁者だった。そう、紛うことなき独裁者。  大人の事情をかんがみてやるとするならば、きっと彼女は努力家だったのだろう。    整ってはいるが華やかさに欠けた容姿と雰囲気。勉学や運動神経においては平凡の域を出ない実力。  しかしそれらに努力、という鎧を着せることで生きぬいてきた。  だからそれを僕にも強いる。  勉強はもちろん、すべてにおいて完璧を望み、努力を美徳として支配する。  山ほどさせられる習い事や塾。菓子や玩具も母が選びぬいた意識の高いものしか認められなかった。  人間関係にすらその検閲は入る。  少しでも母が望ましくないと思われたものは徹底的に排除された。 『あなたには相応しくない』  その一言で遊びの誘いも、寄せられた好意もすべて拒否させられる。  またたく間に友達が出来なくなった。  でもそんな平凡な母から産まれた僕は、容姿だけは非凡だったらしい。  誰もが僕を綺麗だとかイケメンだとか表現する。   『叶芽、あなたはすべて完璧。まるでみたい』  母はいつもそう言う。  しかし僕は写真ですらその顔を知らない。  何故か、母が愛していたはずの【父】の写真が家のどこを探してもないからだ。 『完璧な彼を手に入れたかった』  ――母が僕を未婚のシングルマザーとして産んだのを知ったのは、思春期の頃だった。    高学歴で高収入イケメンである、僕の父を手に入れるために不倫という手を使ったという事実。  ずっと死別したんだと聞かされていた。  他の女性から男を略奪しようとし、結局失敗して一人で僕を産んだ愚かな母。  思えばそれすら、彼女の努力だったんだろう。  そこからタガが外れた。  支配されてきた反動はちょうど性欲に向き、それに夢中になった。  なにせ僕が視線を向けるだけで、バカな女共は媚びた笑みで自らを差し出してくるのだから。  でも愛とは違う。  きっと彼女らも容姿やスペックに惹かれてるだけ。  母と同じように、優秀な(おす)を手に入れたいんだ。  愛してる、なんて呪いの言葉。  母も女共も僕を愛で支配する。
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