愛を信じないオメガの選択

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「誕生日?いや、普通に祝ってもらってたよ。だけどそれは、ただケーキを買っていつもよりもすこしいいごはんを食べて、そしてプレゼントをもらう日で、年中行事みたいなものかな。だから特別と言えば特別だけど、気持ち的には別に嬉しい日じゃなかったよ」 お祝いなのに、年中行事? 「あ、あれと同じだよ。『お正月』。家族が揃って一緒に過ごす、あの退屈で窮屈な日」 オレは今までまともな正月というものをしたことがなかったので、テレビとかで見る正月の風景を思い出す。たしかに家族揃って特別な料理を食べて祝うから似てなくもないけど、普通は誕生日って嬉しいものじゃないの?なのに退屈で窮屈? 「今まで当たり前に過ごしてきたけど、好きな人に祝ってもらうって、こんなにすごく嬉しいものなんだね。初めて知ったよ」 そう言って本当に嬉しそうに笑うと、僕のお腹に手を当てる。 「それに子供がこんなに嬉しいのも知らなかった」 妊娠が分かってから、ノノは何度もお腹を撫でる。その手は本当に愛おしそうに優しくて、オレはなんだか心がくすぐったい。 「前の結婚が上手くいってたら、今ごろ子供が二〜三人いたんじゃない?」 そんなに子供好きなのに残念だったな。 そう思って言ったのに、ノノからは興味無さそうな答えが返ってきた。 「そうだね。作らないといけなかったから、そのくらいはいたかもね」 その事務的な言い方に、なんだか違和感。 いけない? 「うちの親はね、アルファ主義じゃないんだけど、希少なアルファに生まれてその恩恵を受けたからには、次代にアルファを残す義務があるという考えなんだ。だから僕も小さい頃から将来は必ず結婚してアルファを残すようにと言われててね、それが義務だと思ってたんだ」 だからあの時、言われるままにお見合いして結婚したのか。義務を果たすために。 「でも僕は誰も好きにれないと分かってたから、それなりの年になってそれなりの相手がいたら結婚して子供を作ればいいと思ってたんだ。だからあのまま結婚生活をしてたら、もちろん子供がいただろうね」 その言い方に全く愛を感じない。 「義務で作った子は嬉しくない?」 自分が望んだ子じゃないから? 「責任は果たすよ。奥さんも子供も愛する努力をするし、不貞を働く気もない。僕は一生家族を守って生きていくと思う」 誰も愛せないから、家族も愛せない。だけど義務だからそれは果たす。 「あのときはそれが当たり前だと思ってたから、なんの疑問も持ってなかったんだ。だから結婚が破談しなかったら今もそれを続けていただろうね。いい夫でいい父親を。なんの疑いもなくね。でも今なら分かるよ。それがおかしいって」 お腹を撫でる手が背中に周り、オレを優しく抱き寄せる。 「誰かを好きになることがこんなにも幸せなことで、その人との子がこんなに嬉しいものだって分かったから」 ノノから伝わる幸せな気持ちがこちらにも伝わったのか、オレもすごく幸せな気持ちになる。 「トアが教えてくれたんだよ。僕はトアと出会わなければきっと一生分からなかったと思う」 そんなノノの言葉にオレは顔が熱くなる。 「トア、ありがとう。こんな僕とずっと付き合ってくれて。もし途中で別れていたら、僕はこの幸せを知らないままだったかもしれない」 さらにそう続いた言葉にもっと恥ずかしくなり、オレは思わずノノの胸を一度叩いた。 「大袈裟。長かったからこそ、執着心が湧いただけかもしれないだろ」 「それでもいいよ。トアを僕のものにしたいのは本当だし、トアの子供はオレの子じゃないと許せないのも本当だから」 そう言ってオレの頭を胸に抱いた。 「執着心だろうと恋だろうと、僕はトアと居るのが一番幸せだよ」 その甘い言葉に、前のオレなら途端に気持ちが冷めるはずなのに、オレの胸は何故かどきどきと高鳴る。 なんでこんなにどきどきするんだろう。 この鼓動はきっとノノにも伝わってるはずなのに、ノノはそのことに触れては来ない。でも何故だか分かる。ノノの鼓動も早いからだ。
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