愛を信じないオメガの選択

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オメガとしてはダメな人だった。 高校に入って直ぐに出会った父と付き合い、卒業を機に結婚。そのまま家に入った母は進学しなかった。なのに半年もせずに破局。高卒の、しかも妊娠しているオメガなど雇ってくれる会社もなく、なんとかオレを生んだあとは水商売しか出来なかった。それでも、精一杯オレを育ててくれた。 学歴もない。 男を見る目もない。 何も出来ないオメガ。 だけどオレには、最高の母だった。 どんなに疲れてても学校行事には来てくれて、金は無いけどごはんだけは作ってくれた。そして高卒で働くと言ったオレに、今どき大学くらい出てないとろくな人生送れないと言って、大学にも行かせてくれた。特にオレがオメガだと診断されてからは自分と同じようにはなるなと、口癖のように言っていた。 大学も卒業が近づきオメガ枠とはいえ就職も決まって、これでやっと楽させてやれると思ったその矢先、母は呆気なく逝ってしまった。最後まで父を待ったまま。 何も知らない高校生(オメガ)に手を出して、最低なアルファだと思う。それでも責任を取って結婚したのだからそれなりに人としてはちゃんとしていたのだろう。だけど、それもたった半年で捨てるのならうなじは噛むべきではなかった。それがオメガの人生を変えてしまうと、分かっていなかったのだろうか。 最低すぎる。 しかも捨てたオメガは妊娠していたのだ。それは全く避妊をしなかったということで、番って結婚したのなら当たり前のことなのかもしれないけど、だったら尚更半年で捨てるなんてありえないだろ? 純潔を奪われて信じていた愛にも裏切られ、そして人生の全てを壊されたと言うのに、母はそれでも父を愛し、戻ってくるのを待っていた。 母の人生が不幸だったとは言わない。それを決めるのは母自身なのだから。たとえ百人が百人不幸だと言っても、母自身が幸せだと答えたらそれは幸せな人生になるのだ。だけどオレは、そんな生き方はしたくない。自分の食いぶちは自分で稼ぐし、誰かに頼って生きていきたくはない。とは言え、一人きりの人生と言うのもつまらない。 全く恋人や結婚願望がなかったオレは、特別な存在というものを作らなかった。だって好きだの愛してるだのめんどくさい。この世に永遠なんてないのだ。どうせ別れるのに、どうしてそんなこと言い合わなければならないのか。 オレが誰かと付き合うのは、ただ気持ちのいいことをしたいからだ。こればかりは一人ではどうにもならない。いや、出来なくもないけど、その差は歴然。雲泥の差。 やっぱりしてもらった方が気持ちいいし、おもちゃよりも本物を挿れた方が断然気持ちいい。 オレだって人間だからね。エッチは好きさ。だけど縛られるのは嫌だ。だからオレは割り切った相手とだけ付き合っている。 まあ大体、一夜だけの関係。 前はそれでも特定の相手を作っていたのだけど、しばらくするとみんなオレを縛りたがる。 付き合うのは俺だけにして。 結婚しよう。 番になって。 初めからそれだけの関係だとちゃんと確かめ合って始めたのに、なぜか皆んな同じことを言い出す。そうなるともう、こちらの気は冷める。いくら身体の関係だけだと言っても、それなりに気に入った相手としか付き合ってこなかったけど、一度でもそんなことを言われたらもうダメだ。僕はすぐさまさよならを言ってそいつの前から消える。 幸か不幸か、それでストーカー化したした人はいなかったけれど、そんなことが何人か続くともう辟易しまって、一夜の相手とだけ寝ることにした。こちらがしたいときにそういうバーに行って相手を見繕い、そのまま一夜を過ごす。だけど、そんなオレも、発情期は一人で過ごす。 以前はアルファと過ごしていた。だって性欲に支配されるんだよ?一週間も。それを一人で淋しくシコシコずぶずぶしたって虚しいじゃない。だからその間こそ、相性の良いアルファにお願いしていたんだけど、オレはオメガとアルファの本能というものを舐めていた。
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