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長い付き合いで、ノノがアルファとしての力が強いことは何となく分かってたけど、ノノはオレに対して力を使ったことはなかった。いつも大人で優しくて、すごく紳士的だったんだ。なのになんなんだよ、今のはっ。
最近のキャラ変といい、アルファの力での無理強いといい、信じられない。それが仮にも初めて好きだと自覚した相手にすることか?アルファだから?独占欲が強いって?だけどこんなに長い付き合いの中で、ノノがオレに対して独占欲なんてこれっぽっちもなかったよな?なんで今になって急にこんなにバリバリの独占欲出してくるんだよ。
信じられないっ。
だけどもっと信じられないのは、それが嫌じゃないオレ自身だ。嫌どころか、それが嬉しくてもっと縛って欲しいと思ってしまった。
終わってる。
なんなの?これ。
オメガだから?
これはオメガの習性なの?
あまりのことに頭がバカになる。
だから思った。
もう考えるのはやめよう。
もういい。
なるようになれ。
例えこの先ノノに裏切られたとしても、オレがしっかりしていればいいんだ。それにその時はノノの全てをくれるって言うし、とりあえずオレと子供が路頭に迷うことは無い。だからもういい。考えない。
そう思って頭を切り替えると、しばし忘れていた子供の事を思い出す。
本当に妊娠したんだ。
なんか不思議だ。オレだけだった身体の中に、もうひとつ命があるなんて。今はまだ心音も聞こえないくらい小さな存在が、十月十日を経て人間になって外に出てくるんだ。
なんかすごい。
オレに子育てなんて出来るかな。あの母だってできたんだから多分大丈夫だと思うけど、育児は体力勝負だって言うし・・・てあれ?この子生む時ってオレもう40じゃない?大台乗っても大丈夫かな?それに40で生んだら、この子が成人するときってオレ60・・・マジ?還暦じゃん。その辺全然考えてなかった。
「・・・ノノって何歳?」
ノノの財産なんて本気で期待してる訳じゃないけど、子どもが小さいうちは元気でいて欲しい。そう思って訊いたのに。
「今日で34だよ」
34?!
え?
今日?!
「今日が誕生日なんだ。だから今日で34歳。トアは?」
何気なく訊いたノノの歳も衝撃だけど、今日が誕生日なんて。全く知らなかった。
「なら言えよ、誕生日だって。オレなんにも用意してない」
知ってたらなんかプレゼントでも・・・。
「え?だって今更でしょ?いまだって訊かれなかったら言うつもり無かったし。それに僕だってトアの誕生日知らないよ」
確かに知らなかったらそのまま終わる話だし、こんなに長い時間を過ごしていても、お互い知らない誕生日を祝いあったことは無かった。だけど、オレたちの関係は進み始めたんだ。だったら言って欲しかった。
そう思ったけど、分かってる。進めたがっていたノノを止めていたのはオレだ。オレはまだ関係を変えたくなかった。だから知って欲しがってたノノを拒んでたんだ。
「本当にいいんだよ。それに僕は勝手にトアからもらったし」
そう言って嬉しそうにオレの腹を撫でる。
「子供?」
「うん。これ程嬉しいものはないよ。それに会うのをこの日にしたのも、検査薬を用意したのも、誕生日だからだったんだ。一番欲しいものを自分で用意して自分でプレゼントしたんだよ」
だから『勝手に』なのか。
「でももし違ってたら、プレゼントにならなかっただろ?」
「それでも誕生日をトアと過ごせるんだから、僕にとっては十分に嬉しいことだよ」
もしかして今までも、知らないだけでこの日を一緒に過ごしていたのかな?と思ったら、ノノが笑った。
「今年だけだよ、こんなことしたの。ずっと特別だったのに、それに気づいたのはつい先月だからね。今思えばもったいないことした。早く気づいてたら、もっと前から誕生日が嬉しい日になっていたのにね」
誕生日が嬉しい日。
そう思う人はちゃんと祝ってもらえるからだ。だれにも祝われない誕生日なんて、それはただの普通の日と変わらないから。
「ノノも誕生日を誰にも祝ってもらえなかった?」
だから誕生日は嬉しい日じゃなかった?
そう思ったけど、ノノは首を横に振った。
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