愛を信じないオメガの選択

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発情期にオメガが本能に支配され子孫を残そうとするのは知っている。だから発情期中はもう頭の中は性欲でいっぱいだ。だけどたとえオメガが理性を失っても、アルファは違う。常に理性的に動いてくれているはずだと思っていた。 中には意識が飛んだオメガに付け込んで勝手なことをするアルファもいるけど、そこはちゃんと相手を見極めてきたつもりだし、オレの相手は皆んな理性的で悪い人はいない。それに、こっちがちゃんと自衛していれば問題ないと思ってたんだ。だからオレは常にピルを飲み、チョーカーを付けていた。 なのにそれは起こった。 相手のアルファが発情(ラット)したのだ。 互いの本能がむき出しになれば、それを止める術はない。アルファはなにがなんでもオメガを孕ませ、そのうなじを噛もうとし、オメガもアルファを求め自らうなじを差し出してしまう。 飛んだ意識の中でも断片的に覚えている。うなじの衝撃と中に直接出される精の感覚を。 番うつもりのないオメガにとって、それは恐怖でしかない。なのにその時のオレはチョーカーによって牙が阻まれるのがもどかしく、それが邪魔で仕方がなかった。だから何度も自分で引っ張って取ろうとしたのだ。もしそれがカギ付きのチョーカーでなかったら、オレのうなじには今頃本意ではない噛み跡が付いていただろう。 いま思い出してもゾッとする。 正気を戻したオレの腹の中はアルファの精液で満ち、革製のチョーカーにはいくつもの噛み跡があった。 発情したアルファも理性が戻ると真っ青になってオレに土下座して謝ってくれたけど、そのアルファが悪いわけではない。これはオレたちの本能なのだ。それを甘く見たオレが悪い。 そんなことがあってからオレは、発情期は一人で過ごすようになった。オメガにとって性欲が最も高まるその期間こそアルファと過ごしたいけれど、その時の恐怖には勝てず、そのことがあってからずっとオレは発情期をアルファと過ごしていない。でもそのストレスもまた大きく、平常時でも常に誰かと繋がっていたい欲望に支配されるようになった。 一夜限りの後腐れのないアルファの間を、オレは夜な夜な渡り歩き、時にはベータとも関係した。 そんな生活も数年過ぎた頃、オレはあるアルファと出会った。 きっかけは出会い系サイトだ。何気なく選んだ相手は滅多にお目にかかれないほどのハイクオリティなアルファだった。 特に敷居の高いサイトでは無い。 むしろヤリモクばかりのサイトだ。だからオレも相手にそんなに期待していなかったし、相手もそうだろうと思っていた。要するに簡単に寝れて、めんどくさくない相手なら誰でも良かったのだ。だけど現れたそのアルファは最初の見た目からしてハイレベル過ぎて間違いだと思った。 モデル? 芸能人? とにかくアルファの中でも本当に整い過ぎていて、しかも背も高くて、雰囲気も柔らかくて全く高圧的でも無くて、とにかくどこをどう見てもパーフェクトだったのだ。 なんでこんな人があんなサイトにいるんだ? もしかしてオレ、カモられる? 実は結婚詐欺師なのかもしれない。 オレは本気でそう思った。 だけどそのアルファはもちろん詐欺師ではなく、オレと同じ一夜限りの相手を探していたのだ。 聞けば理由はオレと同じ。 恋人も結婚も考えていないから。 何をしてる人なのかは分からないけど、少し話しただけでもすごく優秀なアルファだと分かる。だから仕事もきっとエリートなのだろう。 見た目も頭も性格も良くて、おまけにエリートのハイスペックアルファなんて、周囲が放って置くはずがない。でも本人は全くその気がないのでこられても困る。だけど性欲は人並みにあるのでそれなりに誰かと付き合いたいけど、あちらとこちらの温度差に簡単に付き合うことも出来ない。だからこういうところで、日々の相手を探しているのだと言う。 本人の性能はともかく、考え方と目的がオレと全く同じだったことでオレたちは意気投合。おまけに身体の相性もすごく良くて、お互い一夜で終わるのが惜しくなった。そこで連絡先を交換することになったんだ。と言っても、面倒はごめんだから、メッセージアプリのIDだけ。 そうしてオレたちは後腐れのないセフレとなった。
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