愛を信じないオメガの選択

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お互いしたい時だけ連絡して、時間が合えばホテルで会う。 お泊まりはなし。 ホテル代は割り勘。 そんな関係がオレには心地よかった。 オレたちは性欲の周期も似ているらしく、連絡をしようと思ったらあっちから来るし、構って度も的確だった。 激しくして欲しい時には激しく。 とにかくしたいだけの時は前戯もそこそこにすぐに欲しいものをくれた。 それが本当に痒いところに手が届くと言うか、オレにとって今までになく一緒にいて本当に心地よいアルファだった。だからそのアルファが良すぎて他のアルファでは物足りず、いつしかオレはそのアルファとだけ関係するようになった。 そのアルファは『ノノ』と名乗った。まあ、オレたちは出会いが出会いなだけにニックネームで呼び合っていて、それ以外は何も知らない。本名も仕事も年齢すらも知らないし、オレも教えていない。だからオレたちはお互いニックネームとメッセージアプリのIDしか知らなかった。 ちなみにオレは『トア』だ。 本名が『宇佐見叶愛(うさみとあ)』だからまんまニックネームにしたんだけど、実はオレは自分の名前が好きでは無い。『愛が叶う』なんて、なんて皮肉なんだろう。叶わなかったから父は母を捨てたのに。それともこれから叶うようにと言う願が掛かっていたのだろうか。まあ、今となってはなぜこの名前にしたのか聞けないのだけど、とにかくオレは意味も含めてこのキラキラネームが嫌いだった。 ではなぜニックネームにしてるのか? それはこんなことばかりしていたら『愛が叶う』ことは永遠に無いという、オレの皮肉だ。 まあそんな感じで始まったオレとノノの関係は、意外にもかなり続いていく。 ノノに会うまでは、オレの性欲は壊れていてほとんど毎日のようにアルファ漁りをしていたのに、ノノとのエッチの後は身体が満たされるのか、落ち着いてしまったんだ。それでも枯れたわけじゃないからそれなりに会ってはホテルでいたしてたけど、不思議と飽きたりマンネリ化したりしなかった。本当に身体の相性が良かったんだと思う。 それにやっぱり年齢も関係してるのかも。 盛ってた10代や20代と違って30代になるとエッチよりも安らぎを求めるらしく、激しいのを何回もというよりは、肌を合わせてゆっくり長く一回するみたいのが多くなった。それに性欲自体も治まったのかも。だからノノと合う回数も週に二、三度だったのが、月に二、三度となり、それが二人のいいペースとなり、しばらくそれが定着した。 ノノとの関係が長くなってくると、お互い割と話をするようになる。と言っても身バレするようなことは一切話さなかったので、何年経ってもお互い相手のことは何も知らないままだった。だけど、自分自身のこと・・・性格や考え方なんかを話すことがあった。 『僕ね、人を愛せないんだ』 何の話からだったのか、ノノがそんな話を始めた。 小さい頃からなんでも持っていて、人も周りから沢山寄ってくる。だからなのか、自分から欲しいと思ったものも、特別に思える人もいないんだと。 特別に思える人。 それは親友だったり、恋人だったり。 今まで付き合ってきた人の中で、親友と思えるほど強く思った人はいないし、恋人も心を満たすほどの相手はいなかった。 『みんな同じなんだよ』 ノノの中で友達と恋人の違いは身体の繋がりを持つか持たないか、だ。 どちらも連絡を取り合い、会って遊んで楽しく過ごす。そこで終わるのが友達で、そのあと身体を重ねるのが恋人だ。 ただそれだけ。 気持ちの違いは無い。 だけど人は、それぞれ付き合い方が異なる。友達と恋人を同じように扱ってはいけないことを知っているので、そこは頭の中で区別して付き合い方を変えていた。約束が重なれば友達ではなく、恋人を優先する、とかだ。でもそれはそうでなければならないという常識からなる行動で、本当に特別だから優先させたいという訳では無い。なぜならノノにとっては、どちらも同じくらいの存在でしかないからだ。
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