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そんなノノも若い頃は完璧な恋人を演じていた。だけど、大人になるにつれてそれが面倒になり、恋人と言うポジションを作らなくなった。
『それでもいつかは好きな人が現れるって夢見ていた時もあったんだよ。でもそれは、本当に夢だったんだ』
特別に思える人がいない。
いや、もしかしたら自分にはその感情が欠如しているのかもしれない。だけどそれならそれで、割り切ってしまおう。そう思って、一夜の相手を探すようになったと言う。
その話を聞いた時、そんな人もいるんだなと思った。世間では当たり前のように好きな人が出来ただの付き合っただの、ほぼ毎日のように話されているのに、そんな日常とは無縁な人がいるなんて。
だけど思う。
そんな話をしているどのくらいの人が、本当に誰かを愛し、結ばれているのかと。
かくいうオレも、誰かを好きになったことは無い。好きも愛もなく、恋人がいたことも無い。みんな寝るだけのただのセフレだ。
母を見てきたせいか、愛というものを信じていない。だからオレは誰かを好きにはなることは無いと思っていた。だけど心というものは、時には自分ではどうにもならないものだ。だからオレもいずれは意に反して誰かを好きになってしまうかもしれないと思っていたけど、まだそんなことにはなっていない。
オレも誰も愛せない人かもな。
ノノの話を聞いて、オレはそんなことを思った。だけどそれなら余計、オレとノノはお似合いなのかもしれない。誰も愛せないもの同士、快楽だけを求める関係。だけどそれも唐突に終わりを告げる。
『お見合いするんだ』
結婚する気がないノノは、それでもいずれはしなければならないらしい。今まで持ち込まれる見合い話ものらりくらりとかわしてきたものの、今回は断りにくい相手なのだという。
『誰も愛せないからね、正直誰でもいいんだ。だから今回は受けようと思ってるんだよ。断るのめんどくさいし』
そんな理由でお見合いしても相手は喜ばないのではないか?そう思ってもオレは何も言わなかった。どういう人とお見合いするのか知らないけれど、きっと相手もそう言う家の人なのだろう。
やっぱりオレとは住む世界が違うんだな。
そう思っていたら、ノノの話はまだ続いていた。
『だから何も無ければ、そのまま結婚になると思うんだ』
結婚・・・。
『分かった。じゃあ、オレとはこれで終わりだね』
オレもノノも、誰も愛せないからと言って不貞を犯すような人間じゃない。オレは今までたくさんの男と寝てきたけど相手がいるやつとはしてこなかったし、それはノノも同じだろう。どんな理由にしろ結婚したら、ノノもこんな生活は終わらすはずだ。
『うん。ごめんね』
申し訳なさそうにそう謝るけど、なんで謝る必要がある?むしろこんな薄い繋がりのオレとよくもまあこんなに付き合ってくれたものだ。
『今までありがとう。僕はトアと出会えてよかったよ』
ああ、本当にこれが最後なんだな。
そう思いながらオレも別れの挨拶をする。
『オレも。こんなオレと付き合ってくれてありがとう』
そうして別れたオレたちだったけど、オレはどうしてもノノのIDを消すことが出来なかった。まあ、連絡さえしなければ問題ないだろう。そう思ってそのままにした。
それからオレはノノに代わる相手を探した。アプリを利用したり、その手のバーに行ったり。だけどどうもこれというアルファに当たらなくて、結局誰とも関係を持たなかった。驚くのはそれでも大丈夫だったということだ。発情期はあるものの、それ以外の平常時はまるで性欲が湧かなかった。
もしかして枯れちゃった?
まだ30代の半ばだと言うのに、それはちょっと早いのでは?
そう思って焦っていたその時、来るはずのない人からメッセージが来た。ノノだ。
『僕のこと、まだ覚えてる?』
覚えてるも何も、別れてからまだ一年も経っていない。
なんでメッセージ来た?
そう訝っていると、さらに続けてメッセージが来た。
『実は結婚がダメになってさ。トアのところにまだ僕の場所ってあるかな?』
・・・・・・・・・え?
結婚がダメになったって、結婚話がダメになった?それとも、結婚生活がダメになったの?
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