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相佐は冷や飯と溶き卵で鍋の(しめ)を雑炊に仕立て 「身も心も寒い時は酒と鍋に限るな」 呑水(とんすい)(よそ)い、受け取った老妻は 「貴方は人造(ひとづく)りが好きな人だと思っていましたよ」 一味(いちみ)を振り掛け、(すす)る 「(ひと)(つく)るものでは無い。ものだ。子作りは好きだがな」 「貴方は会社の利益より社員の給料でしたからね。給料は最低限に抑えて、外国人を入れて、東南アジアに進出していれば、また違ったのでは無いですか?」 「『技術を確立して人件費の安い東南アジアで作りましょう』ってか?等と言って、日本人労働者から雇用も職能を鍛える機会も奪って、遠からず『10年前は普通に出来たのに』とか言い出して、と騒ぎだすだろうよ。製造業だけでは無く、()りと()らゆる業種でな。年功序列の終身雇用に賃金の後払いの退職金。の点では良い仕組みだ、職人には『此だけ遣っていれば将来は安泰(あんたい)』って安心が必要でさ、順当(じゅんとう)に賃金が上がって定年まで勤め上げれば退職金で第2の人生。嫌な仕事でも頑張れるし自然に愛社心(エンゲージ)(はぐく)まれるだろう?それを海外に生産を移して外国人労働者を大量に流入させ、完全に崩壊させてしまい、短期間で転職しても何の不利益(デメリット)も無い。(むし)ろ『』と思う仕事を嫌々と続ける不利益の大きさな。ばあさんが言うならよ、ボチボチ教えて遣らんでもないけどな、経験の浅い連中では六面体造りからして難しいだろうがよ」 気炎を揚げる相佐に老妻は銚子を持ち(しゃく)をして 「貴方はまだ機械工のお仕事を頑張って下さい。出来るだけ技術はして末永(すえなが)く働ける様に。年金だけではやっていけませんし、お正月にはお孫ちゃん達が遊びに来ますよ。お年玉を渡せないと大変な事になりますからね」 言うと 「おう、まだ酒は沢山有る。今夜(こんや)呑もう」 相佐は老妻に酌をし、差しつ差されつ夜は()けて行く 夜空の星の小さな家から笑い声が聞こえ、其れを遠くから見ている、黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子は言った。 「あ~ら、末永くお幸せに」
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