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「相佐さん!ちょっと、こっち来て」
作業着の女が手招きし
「同じパート社員なんだから、儂の仕事を増やさないで」
相佐が、愚痴を溢しつつ、何台か工作機械の立ち並ぶ工場の一角に足を運ぶと
「此れ…『遅いぞ糞爺!』って、伊藤君が壊しちゃって、直してくれない?」
数値制御旋盤は赤いランプを点灯させ停止していて
「他人の間違った仕事ばかり猿真似して、異常な迄に主軸回転数と送り速度を上げて…ドリルの刃を欠けさせて過負荷で停止めたら逆に遅いぞ」
場に居ない伊藤に突っ込みを入れ
「私、相佐さんの段取りが良かったのだけどねぇ」
「儂は安部さんでも刃物の交換が出来る様に、スローアウェイのGUNドリルの段取りにしましたよね?ツイストドリルに交換えて、端面から5㎜で突き抜けてるのに10㎜まで、切削送りで突っ込んで…空気を削ってやがる」
機械右手のディスプレイを見て制御盤で操作
しつつ言った
「『どうだ~、俺のプログラムの方が速いぞ~』って言ってたけど」
「『俺は足し算も出来ないぜ!』って威張ってどうしますか。世代も学歴も違わないだろうに、あの糞餓鬼、ドリルで穴開ける前に、小学校の算数ドリルからやり直さないと」
「伊藤君、凸凹工科大卒で、社長の大のお気に入りで、色々と教えてあげてくれない?」
「何を、どうやって?」
「お困り事が御座いますでしょうか?」
相佐は、黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の、出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子に声を掛けられ
「お困り事も何も、何奴も 此奴も儂の言う事は何一つ聞かない癖して、パートの爺の仕事を増やす様な真似ばかりで…貴女は?」
思わず愚痴ると
「申し遅れました、私こう言う者に…」
名刺を差し出され
「禍金機械商会さん。昔に取り引きが有ったか?でも若い儘で…」
記憶の糸を手繰り寄せ様とするが、確たる記憶が呼び起こされる事もなく
「お祝いが遅れました」
の言葉に
「此れは立派な物を」
頭を下げ受け取り頭を上げると、もう禍金の姿は無かった
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