0人が本棚に入れています
本棚に追加
6
相佐は冷や飯と溶き卵で鍋の〆を雑炊に仕立て
「身も心も寒い時は酒と鍋に限るな」
呑水に装い、受け取った老妻は
「貴方は人造りが好きな人だと思っていましたよ」
一味を振り掛け、ふうふうと啜る
「人は造るものでは無い。育てるものだ。子作りは好きだがな」
「貴方は会社の利益より社員の給料でしたからね。給料は最低限に抑えて、外国人を入れて、東南アジアに進出していれば、また違ったのでは無いですか?」
「『技術を確立して人件費の安い東南アジアで作りましょう』ってか?技術移転等と言って、日本人労働者から雇用も職能を鍛える機会も奪って、遠からず『10年前は普通に出来たのに』とか言い出して、人手不足と騒ぎだすだろうよ。製造業だけでは無く、有りと有らゆる業種でな。年功序列の終身雇用に賃金の後払いの退職金。技術承継の点では良い仕組みだ、職人には『此だけ遣っていれば将来は安泰』って安心が必要でさ、順当に賃金が上がって定年まで勤め上げれば退職金で第2の人生。嫌な仕事でも頑張れるし自然に愛社心も育まれるだろう?それを海外に生産を移して外国人労働者を大量に流入させ、完全に崩壊させてしまい、短期間で転職しても何の不利益も無い。寧ろ『向いてない』と思う仕事を嫌々と続ける不利益の大きさな。ばあさんが言うならよ、ボチボチ教えて遣らんでもないけどな、経験の浅い連中では六面体造りからして難しいだろうがよ」
気炎を揚げる相佐に老妻は銚子を持ち酌をして
「貴方はまだ機械工のお仕事を頑張って下さい。出来るだけ技術は出し惜しみして末永く働ける様に。年金だけではやっていけませんし、お正月にはお孫ちゃん達が遊びに来ますよ。お年玉を渡せないと大変な事になりますからね」
言うと
「おう、まだ酒は沢山有る。今夜はとことん呑もう」
相佐は老妻に酌をし、差しつ差されつ夜は更けて行く
夜空の星の小さな家から笑い声が聞こえ、其れを遠くから見ている、黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子は言った。
「あ~ら、末永くお幸せに」
最初のコメントを投稿しよう!