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いつから降り始めたんだか、気が付くと窓の外には雪が見える。
見るからに綿菓子のような雪は、風もない黄昏時を楽しむようにフワフワ漂っているようだった。
どこまで行ったんだろう。
ちょっと出かけて来ると言って出て行った彼は、四時間経っても帰ってこなかった。
いつもならそろそろ夕飯の支度をする時間で、用意が出来た頃に彼が仕事から帰ってくる。わたしたちは結婚しているわけじゃないけれど、もうそれが当たり前の日常だった。
休日で出掛けても、遅くなるなら連絡は入れてくれる人だ。
ただ、今思うと出ていく彼の後ろ姿を見送った時、何故かいままで感じたこともないなにかが脳裏を横切った気もする。
「もともと他人なんだもん。20年以上違う環境で育ち、友達も趣味も思考も好きな食べ物でさえほとんどが合わないわたしたちがひとつ屋根の下でなんの文句もなく生活していること自体不思議なんだし、たまにひとりでふら~っと遊びに行きたくなってもおかしくないよね」
だけど、どこに行くくらい言ってくれてもいいのに・・。
作っても食べるのか食べないのかわからないと思うと、夕食を作る意欲すら消えて、冷蔵庫から出した食材を見ても手が動かない。
「それに、わたしは料理が下手だしなぁ」
高校からの親友である真由の旦那は、結婚の決め手は彼女に胃袋を掴まれたからと結婚式でのろけた。場を盛り上げるためのジョークかと思ったら、うちに招かれた時に真由が出してきた家庭料理は絶妙に美味くて驚いた。
わたしも年相応に料理学校に通った時期もあったけれど、腕はまったく上がらなかったし、人には向き不向きがあり、さらに生まれ持った才も左右すると叩きのめされた。
いまも頑張って作っているけれど、自分で食べても可もなく不可もない、空腹だけは満たしてくれる食べ物といった気しかしていない。
自分でもそうなのに、彼が旨いと思うはずはないし、最悪なのは彼の実家は旅館だった。
その時、素足にフワリと毛皮のファーが纏わりつく。
ひやぁぁーっ! なに!!
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