西令草のアリバイ

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西令草のアリバイ

 十分後。彩良の年下の婚約者で岐阜県下呂市金山山岳高校一年の日下健くんが部屋での事情聴取に加わりました。はにかんだ笑顔が印象的な小柄の少年です。 「健ちゃんってば。北海道の高校との交換留学の途中でしょう」  彩良さんは、ほかの人には絶対見せない優しい目を日下くんに向けます。 「事件のこと、yahoonewsで見たんです。『みちのく温泉』の事件は昨日の午前でしたね」  日下くんは、じっと西さんの顔を見つめます。 「実は昨日の朝、地元の高校生と一緒に函館の生鮮卸売市場を見学していたんです。そうしたらひとりの男の人が新巻鮭の売場で、新巻鮭を抱きしめ、頬ずりしたりペロペロなめ回したりキスしたりしてたんです。すぐに市場の人が何人も来てどこかへ連れていったんですが、チラリと見たその表情が、小説投稿サイト『エブリスタ』で見た西令草さんの似顔絵にそっくりだったんです。西さんは人気があるのでよく似顔絵を見て知っていました。昨日の早朝のことでしたから、それがもし西さんなんら『みちのく温泉』の事件は西さんとは関係ありません」  彩良が真剣な顔で西さんに尋ねます。 「あなたのアリバイを証明する大事な証言です。函館の生鮮卸売市場で、新巻鮭にハグしたりキスしたりしていたのはあなたですか?」  西さんはワナワナ震えながら、 「僕のワケないだろう!」
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